「なっ…にを、灰歌っ!」
痛みに歪む白謳の顔を見て、満足そうな灰歌。
瞬間、腹部に突き刺さった手を思い切り引き抜く。
「ぐあぁっ!!」
「……いいよ。しろ。もっと、ボクの名前を呼んで? もっと、その苦痛に歪んだ顔を見せてよ!」
灰歌は血のついた手を舐める。その目は狂気に満ちていた。
「何も知らないなら、ボクが教えてあげるっ!! 覚えてないなら、思い出させてあげるっ!! だから、“ボク”を見て!!」
灰歌は容赦なく白謳に攻撃を繰り出す。
狂気に飲み込まれた彼は、技の制御などしない。ただ力の限り暴走する人形のようだった。
「……灰歌。あなたは、何故私に執着するのです? 何故、黒詠を狙うのですか?」
白謳は腹部を押さえ、残された力を振り絞って立ち上がる。
その時。
ヒュオォォー!!
冷たい風が吹き抜けた。
「……そいつの、そいつの名前を呼ばないでよ。しろ。」
灰歌は、殺気に満ちている。パキパキ、パキパキと彼の足下が凍りついていた。
「……なんでしろは、あいつばっかりなの? 憎い。憎いよ!! あいつも!! ボクじゃなくてあいつと一緒にいるしろもっ!!」
「……灰歌っ!?」
白謳に吹き付ける風と雪は、灰歌がくりだしたもの。
しだいに、その雪は灰歌の周りに集まり、形を成していく。
風がおさまった時、彼の背には、氷の翼。そして、氷の刃が浮遊していた。
「……ボクは許さない。ボクからしろを奪おうとするあいつを。
だから……。」
洞窟が静まり返る。
「ボクはあいつを殺すんだっ!! そうすれば、しろはボクのものだから。あはは、はははは!!」
はじめて白謳は恐怖を感じた。
いつも灰歌は子供らしく、少し変な所もあった。
しかし、ここまで心が凍りついているとは思っていなかった。
彼には、何かが足りない。
氷の心を溶かすために必要なのはただひとつ。
誰かの温もりだった。
「ですが、私はあなたを愛せない。私の大事な人を傷つけようとするあなたを、愛するなんてごめんです!!」
白謳は炎を纏う。
灰歌を止めなければ、大事な人をなくしてしまうかもしれないから。
「私はあなたを止める!!」
ゴォッと炎の刃が灰歌に向かって飛んでいく。
「……なんで? ボクはキミを愛してるのにっ!! なんでボクを愛してくれないのっ!!?」
灰歌も纏った氷の刃を放つ。