しばらく頭を撫でてもらっていると、何故だか涙が溢れてきた。別に悲しいわけでもない。

「う……うう……。」

小刻みに震える命を見て、リヒトはその手を彼の頭から離す。そういえば、彼の涙を見たのはいつぶりだろう。いや、初めてかもしれない。
命はいつもニコニコして、その場を明るくしてくれる。そんな彼が、こんな風に涙を流すとは思わなかった。

「……どうした、命?」

優しく問いかける。しかし、答えはない。体育座りの状態で、腕の中に顔をうずめているため、聞こえるのは嗚咽だけ。
普段ふわふわと揺れる長い尾も、柔らかい草の上に投げ出されていた。こうして見ると、命の身長よりも長いことがわかる。

「黙っていては、わからないぞ?」

いくら心を読むのがうまいリヒトでも、彼の深い深い悲しみや寂しさまでは探求できなかった。それはきっと、辛い気持ちでしかないから。
人には、知られたくないこともあるとわかっている。だが、長年共に生きてきた彼の気持ちを、リヒトはどうしても知りたかった。

「辛いことは吐き出した方が楽になる。ためこむのは良くないぞ? 俺とお前の仲だろう?」

「……っ、うわあああん!!! リヒトおおお……。」

命はリヒトに勢いよく抱きつく。その反動でリヒトは草の上にしりもちをついた。

「うあああん!! 僕、僕……。」

リヒトはそっと命の体に手をまわし、ぎゅっと抱きしめた。とても小さな体だった。
ぽろぽろと大粒の涙を流し、リヒトにすがりつく。

「ぼく……さびしかった、こわかった、リヒトがはなれていってしまうのが……うう……ひとりぼっちはいやだよお……ぼくをひとりにしないでよ……。」

必死に訴えかけてくる命。
リヒトは彼が一人になるのを極端に嫌っていたことを思い出す。あの時、自分がもっと早く助けに行けば、こんなトラウマを植え付けられることもなかったはずだ。助けに行ったときにはもう、目の前は瓦礫の山だった。
それを、何度後悔したことか。
リヒトは唇を噛みしめる。






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