來宵の闇を纏った手がリヒトに届く寸前。
なにか強い衝撃が來宵を吹き飛ばした。
「なんじゃと……!?」
ざざあ、と地面に着地した來宵は驚いたようにリヒトの方を見る。
そこには桃色の青年。身長的に命ではないようだ。
「ったく。油断してんじゃねえよ。」
「……すまない、禊。」
禊と呼ばれた青年は、命の中に存在する人格だ。
命は自身の人格以外に二つの人格を持っている。禊は戦闘を得意とする人格である。
「これは驚いたの。まさか汝の中に別人格が存在していたとは……。」
これはおもしろい、と來宵は呟き、笑みを浮かべる。まるで楽しんでいるかのようだった。
「……嫌な笑い顔だな。」
禊が目を細める。スッと構え、戦闘体勢に入った。
「来いよ。こいつの代わりに俺がお前の相手してやる。」
禊は來宵を挑発する。リヒトは困ったようにため息をついた。
「禊、油断するな。來宵はそう簡単に倒せる相手じゃないからな。」
「んなこと言われなくてもわかっているさ!!」
リヒトの忠告に軽く返事をし、禊は勢いよく來宵に向かって走り出した。
「……汝に用は無い。だが、我の邪魔をしようとするならば容赦はせぬぞ?」
來宵は先ほどと同じように手に闇を纏う。闇を纏ったその手は、黒く鋭い爪と変形した。