「そうか。なら、様子を見に行くしかないな。」
リヒトは静かに言った。少し悲しみを浮かべた顔で。
今まであの子から逃げてきた。だから、もう逃げるわけにはいかないんだ。
「リヒト、無理はしない方がいいよ?」
「無理などしてない。俺はもう、逃げたくないんだ!」
命の言葉を振り切り、リヒトは後ろを向き歩き出す。
「……大丈夫かなあ。絶対無理してると思うんだけど。」
命はリヒトの背中を見ながら、長い尾を揺らした。
「心配ですが、父上は強い人です。きっと、乗り越えてくれますよ。」
アークは命に微笑んだ。リヒトそっくりな顔をしている。笑った顔なんてリヒトそのものだ。
「でも……。」
アークは笑顔から一転、真剣な顔になる。
「もし、万が一の時には、命さん。父上をお願いしますね。」
アークはまた笑顔になる。父親を心配するのは、子として当たり前のことである。
「うん。任せといてよ!」
命もにこりと笑って、遠くに見える白い背中に叫ぶ。
「リヒトー!! 待ってよ! 僕も一緒に行くよ!!」
命は急いで背中を追いかけて行った。
それをアークは静かに見送る。
どうか、二人とも無事で帰ってきますように……。