帰り道でも、私達に会話は無い。
隣にいる裏穹は、うつむいている。
「…棕櫚」
ふと彼が棕櫚の名を呼ぶ。
「主人は我らの事を、恨んではいないのだろうか?
我は苦しんでいる主人に、何も出来なかった…」
「…恨んでいるかなんて、私にはわからん。だがな、これは主人の最期の願いだ。私は…後悔などしていない。」
恨むなら、私を恨めばいい。裏穹は、何もしていないのだ。
「…ふざけおって。何が後悔などしていない、だ。我は貴様を許さぬぞ?絶対に…」
いつものように殺意丸出しになる裏穹。
「好きにしろ。」
めんどくさくなって、私は彼の言葉を軽く流した。
いつの間にか雨は止んでいた。
がちゃ、と我が家のドアを開ける。
「あ、おかえりー。棕櫚!裏穹!」
目に飛び込んできたのは、今の主人であるソルトの満面の笑顔。
「ケンカしなかったでしょうね?」
「ああ、大丈夫だ。」
私は笑って見せる。
「おい!棕櫚!もういいだろう!
我は貴様を殺したくて仕方ないのだっ!!」
…まったく空気を読まない奴だ。
はぁ、とため息をつき私は歩き出す。
「今日はダメだと言っただろう?
少しは学習しろ。お前は鶏か…?」
「っ!!な、なんだと貴様!
おい!待て!」
棕櫚は知らんふりで二階に上がって行く。
殺気を纏った裏穹を無視して。
「…ぜ、絶対に貴様を殺してやるーーっ!!」
−この幸せな時間が、いつまでも続いてほしい。
昔のような悲劇はもう味わいたくはない。
いつか私達の中に降り続ける雨が止む日が来ることを祈ろう…
心の雨は、まだ止まない…
−end