しばらくして來宵は目を覚ました。
どうやらあの場所での記憶がすっぽりと抜け落ちているらしく、何が起きたのか覚えていないようだった。
「とと様ー!」
草原を走り回っていた來宵は、立ち止まりリヒトに手を振る。
にっこりと無邪気な笑顔に、離れて見ているリヒトも手をひらひらと振り返す。
「本当に、行くんだね?」
ふわふわと浮遊している命は、楽しそうに走り回る來宵を眺めながらリヒトに問いかけた。
「ああ。」
リヒトは躊躇なく返答する。
たとえ一人になっても、あの子はきっと大丈夫だ。
そんな小さな希望を抱いて、リヒトは來宵を呼んだ。
「とと様。どうしたの?」
にこにこと上機嫌で來宵はリヒトのもとへ駆け寄る。これから自分が冥界へ連れて行かれるかなど、思ってもいないような笑顔だった。
「來宵。俺と一緒に出掛けないか?」
リヒトはしゃがみこんで來宵の目を見る。それと同時に頭を撫でてやった。
大好きな父親とお出掛け、と聞いて來宵はとても嬉しいのかぴょんぴょんと小さく跳ねた。
「とと様とお出掛け! 行く行くー!!」
「そうか。じゃあ早速行こうか……? 少し遠いから、」
「抱っこ!!」
リヒトは言うとおり、來宵を抱き上げる。少し、ほんの少しだが、前より重くなったような気がした。
「とと様いい匂い。」
來宵はすりすりとリヒトの服に顔を押し付けている。
「命、行ってくる。」
「うん。行ってらっしゃい。」
リヒトと來宵は、草原から姿を消した。
命は笑顔で送り出してやった。