「來宵は、この世界にいては危険だ。だから、死者の魂の寄りどころ、“冥界”に連れて行こうと思う。」
來宵にとっては残酷なことかもしれない。しかし、そうでもしないかぎり彼はいつまでもリヒトを追いかけ、またこのような事件を起こすかもしれないのだ。
「……でもそれは、この子と向き合おうとしないで、逃げてるだけなんじゃない?」
命はなんとなく予想していた答えと同じ答えを聞いて、少し現実的なことをリヒトに問いかけてみる。
果てしなく広い草原は風も吹いていない。二人の会話がただただ響いていた。
「だが、愛した我が子を手にかけることが出来る程、俺は強くない。それに、このまま來宵を育てていく自信もない。いや、育てていくのが怖いんだ。」
リヒトは命を見る。その目は、覚悟をした目だった。
「例え逃げているとしても、今の俺にはこうすることしか出来ない。」
今まで無風だった草原に、強い風が吹く。命とリヒトの髪がさらさらとなびく。
「……リヒトがそれでいいなら、僕は何も言わないよ。僕はいつでも君の味方だからね。」
ふうっとため息をつき命はニコッと笑う。と同時に長い尾が動いた。
少し不安もあったが、世界がそれを望むならそれで構わない。
僕なんかより、リヒトはずっと辛い思いをしてるんだ。だから、少しでも彼が楽になれるなら僕はそれでいい。
「來宵の目が覚めたら、行こうと思う。」
リヒトは來宵を強く抱きしめた。
それは、最後の別れの挨拶のようだった。