灰歌を置いて洞窟からでると、もう太陽が沈んでいた。
「ただいま。」
白謳は大事な人が待つ塔の門を開けた。
すると、ドタバタと誰かが走る音がする。
「白謳!! 今までどこに行ってたんだよ!! あまりにも遅いから、俺が夕飯作ってやったんだぞ!?」
エプロン姿で白謳を迎えたのは、自身の片割れであり、大事な人、黒詠だ。
「……すみません。心配かけてしまいましたか。」
「べっ!! 別に心配なんかしてねーから!! それにしても、ひどい怪我じゃねえか!! 早く入れよ。手当てしてやる。」
すこし顔を赤らめながら黒詠は白謳の手をとる。
一日中氷点下の洞窟に居た白謳には、彼女の手がとても温かく感じた。
「あぁ……そうか。」
ボソッと白謳は呟く。
「……? どうかしたか?」
黒詠が振り向く。よく近づいて見ると、彼女の顔は黒くなっている。
「いいえ。何でもありません。」
白謳は微笑んだ。
「ところで、あなたが夕飯を作ったんですか? その様子だと、ろくなものが出来てないでしょう?」
「うっせえ!人が頑張って作ったんだ。感謝して食えよ!! 残したらクロスサンダー!!」
「はいはい。」
ドォン……。
勢いよく塔の門が閉められた。
そうか。彼には、この“温もり”が必要なんだ。
すぐ近くにあるのに、気づかなかった。
私は、幸せ者なんだな。
彼にも、いつかこの“温もり”に気づける日がくるだろう。
その時は、私が笑顔で彼を迎えよう。
end