書きたい所だけ書いてみる3
誰かに呼ばれているような気がする。その感覚はずっと続いていた。
いつからなんてわらない。ただ、その呼び声はとても懐かしくて、心が自然と高揚する。
そして僕は、その声の主を探し続けた。
「歌がする……」
その日はいつもと違い、呼び声ではなく、歌声だった。
歌声は僕の頭の中にある言葉を並べたとしても、きっと言い表すことができない。
確かに聞こえる歌声を頼りに僕は足を速める。
いつこの歌声が途絶えるかわからない。目を閉じ、聞き入っていたいが今すぐにでも声の主に会いたい。ただ、その一心で街を駆け抜ける。
すると、一戸の廃ビルに辿り着いた。
そのビルの周りだけ騒音がなく、歌声だけが夜の街に響いている。
なんだかこの空間だけ違う場所のように感じ、何故だか気分が高まった。
廃ビルの中に飛び込み、階段を一気に駆け上がる。
もうすぐ会える。そんな予感がした。
満月が照らす屋上に辿り着き、人影を見つけた。
その瞬間、歓喜に体が震えだし、足を一歩踏み出すと、歌がやんだ。
「なんだ。もう見つかったのか」
月の明りに照らされた人物は、そっと囁くように言い、ゆっくりこちらを振り返った。
中性的な顔立ちで、性別まではわからないがとても美しいということだけは分かった。
美しい顔は笑みを浮かべ、またそっと囁いた。
「久しぶりだな。紫苑」
その瞬間、ずっととまっていた僕の全てが動き出した。
fin
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