書きたい所だけ書いてみる2


時計を見つめるのはこれで何度目だ?と、心の中で吐き捨てる。が、それ自体も何度目か分からない。
俺は今、ジュードと酒場で待ち合わせをしている。
なぜ酒場なのかと言うと、二十になったジュードを「俺が大人にしてやる」と誘ったからだ。
まぁ、あながちその科白は間違ってないが…俺たちは少し前に恋人同士になったばかりだ。
ジュードの誕生日にちょうどイル・ファンの仕事が入り、ゴチャゴチャしてたら恋人同士になった。まぁ、そんなオチだ。
て、何もない感じで言うが、未だに実感できてない。
だって、未だに俺はジュードに負い目を感じてるから。
「好きだ」も「愛してる」も言える立場にないことは良く分かってる。
だから一人背中を向けていたのに、ジュードが俺の背中を思い切り引っ叩いて正面を向けさせた。

「アルヴィンの馬鹿!僕はずっと君が好きだって言ってるじゃないか!!」

と泣きながら大声で叫ばれ琥珀色の目に大粒の涙をつくり、それをハラハラ溢しながら叫ばれるとこっちも抑えてなんていられなかった。
明かすつもりなんて更々なかったから言葉はグチャグチャで、全て届いたかは分からないが、ジュードは笑ってこう言った。

「その言葉を待ってたよ」

今まで見た笑顔の中でも一番輝いて見えた。
俺が一番好きなジュードの顔だった。





「ああ〜もう酔ってきちまった」

周りから見れば一人寂しく酒に酔っている可哀相な奴に見えるだろう。
その通りだ。約束の時間になってもジュードは現れず、こうして寂しく酒に飲まれている。
事前に遅くなるかもしれないとは言われていた。
だが、俺は素直にアイツを待ってる。捨てられた犬みたいにブルブル震えて。
最後にもう一杯飲もうかとマスターに声をかける前に、誰かが近づいてくるのを感じ振り返る。
きつい香水のニオイを振りまきながら、露出度の高い服を着た女が近づいてきた。
女の顔は申し分ない。それに出るところはしっかり出て『女』を主張している。が、今の俺にとってはただのウザイ女で終わる。
今まで通り、女を嘗め回すまではいかないが見つめてみるが、何も「変化」はない。特に分かりやすい下半身。
思わず溜息が出そうになるが、それは相手に失礼だと思い我慢した。

「どうしたの?お兄さん。よかったら一緒に遊ばない?」
「オネェサン悪いけど、今待合わせしてんの。夜の相手なら他をあたってくれ」
「そんな連れない事言わないで。お兄さんならタダでいいから。待ち合わせの相手も来ないんでしょ?」

内心ギクッとしたが、顔に出さず、時計を見るともうすぐ日付が変わるころだ。
素直に宿に帰ればいいものをこの時間まで待ち続けるなんてほんと、惨めだね〜。
ああ…一気に気分悪くなった。

「女に逃げたい所だけど、今そんな余裕ないんだよ。頼むからほっといてくれ」

女に向かって吐き捨てるように言ったが、それでも女はしつこく絡んできて、腕に張り出た胸を押し付けてきた。
その瞬間、後ろから反対側の腕を引っ張られ、驚いて振り返るとジュードが立っていた。
ジュードは何の感情ものせていない顔のまま、マスターに金を渡し、俺の腕を引っ張って店を出た。

一度も振り返ることなく歩き続けるジュードの背中から、色んな感情が伝わってくる。
珍しいこともあるもんだっと他人事の用に思っていると、急に前を歩いていたジュードが立ち止まり、少しぶつかってしまった。

「悪いジュー」
「どうしてもっと嫌がらなかったの?」
「え?」

ぶつかったことを謝ろうとしたら、言葉を被せてきて一瞬何のことか分からなかったが、問いかけてきた声を思い出しなんとなく分かった。

「おたく、どこから見てたの?」
「…女性がアルヴィンに近づいた時と一緒くらいから」
「は!?それほとんどじゃねーか!ていうかそんな前から見てたなら早く来いよ!」
「僕だって早く行きたかったさ!でも、動けなかったんだ…。」

最後は消え入りそうなくらい細く、弱い声で言い俯いた。
きっとジュードまた余計なことを考えているに違いない。
それは「アルヴィンにはやっぱり女性がお似合いだよ」という、俺の気持ちを無視したものだ。
確かに俺たちは間違った恋愛をしているのかもしれない。
だとしても、恋人であるジュードの口からは聞きたくなかったというか、言われてショックを受けた。
でも、そのショックの原因は、俺がずっと逃げてて、ちゃんと言葉でジュードに伝えてないからであって、決してジュードのせいではない。『自業自得』というやつだ。

「ジュードとりあえず、2人になれる所に行こうぜ」
「…うん」

今は落ち着いて話した方が言いと思い持ちかけると、ジュードは自分の家がある方へと歩き出した。
それからは重い沈黙が続いた。




ジュードの家に着くなり話を持ちかけようとしたら座るように促され、真っ白のソファに腰を下ろす。
ジュードは台所に立ち、お茶の準備をしているようだ。
自分でも落ち着かなければと思っているのだろう。そこがまた優等生だ。

「お待たせ…」

いつもは笑顔でいう言葉も、今は影を落として気持ちを抑えているのがわかる。
未だに伏せられた目を盗み見ると、少し落ち着いた色をしていた。
それに少し、寂しさを覚えるのは自分勝手すぎる。
こうして心の中だけで唸っていても仕方ない!ここは一番言いたくなかった本音を告白するか…。

「ジュード。俺が今からいうことは事実だ。覚悟して聞いてくれ。」
「……うん」

自分の気持ちを人に伝えるという行為に不慣れだが、いつまでも引きずっているとこの関係は終わると思った。それだけはどうしても、どうしても避けたかった。

「俺、もう女じゃ何も感じねぇーんだ。」
「……へ?」

人生最大の告白をしたというのに、俺の目の前にいるジュード君は「キョトン」という効果音が字で出て来そうなほどの呆然っぷりだ。

「いや、だから、女じゃ体も心も感じないって話!OK?」
「……ということは、アルヴィンは…そっちなの?」
「ジュ、ジュード君…。嫌な考えにたどり着くのはよしてくれ…。」

さっきまで重かった空気が更に重くなった。
この子はどんだけ鈍感なんだよ。どう考えても告白に聞こえるだろ?

「あ〜もういい!いい!俺、おたくじゃねーともうダメなんだよ!これで俺が言ってる意味が理解できるか!?」
「………う、うん。……あ、あ、ありがとう?」
「なんで最後が疑問系なわけ。俺は告白をしたんだぞ!しかも人生最大のな!」

そう、俺は人生で一番は恥ずかしいと思っていた言葉を告げたんだ。
他の誰でもないコイツに。
怒りを通り越して呆れてくるよ。その鈍感さ。

「少しは俺の気持ち、理解したか?」
「……うん。僕も…好き……」

言い聞かせる為に言った言葉に返事が返ってきた。
それは最後の方は小さく呟くように言われたが、しかりと聞こえた。
余りの嬉しさに顔の筋肉が勝手に和らぐのがわかる。それくらい。

「そういう科白は目を見て言いましょうね〜ジュード君!」
「なふぃすふのさぁ!」
「ほら、ちゃんと俺の眼を見て、さっきの科白言ってみ?俺のことがだぁい好きだって」
「そこまで言ってない!」
「あらそ?俺にはそう聞こえたんだけど。違った?」
「……違わない…」

まったく、可愛すぎるのも問題だな。
これから先、どうなるかは誰にも分からない。
だが、今は未来を考えるより、ジュードとの『今』を精一杯生きたいと思う。
それが今の俺がしたい一番大切なこと。

俺はそっとジュードの唇にキスをした。



fin




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