書きたい所だけ書いてみる1


帳場も立たず、臨場要請もない今日は正しく『暇』だ。
姫川と菊田は何か良いネタはないかと思い、國奥のところに向かうことにした。
姫川は少しダルそうに階段を下り、菊田はその後に続く。

「きたくぁ、今日は暇ね〜」
「そうっすね」
「何かいいネタはないかな〜」

仕事人間の姫川にはこの退屈が気に入らないらしい。
菊田は内心「せっかくの暇なんだからくつろげばいいのに」と思うが、休みなしに働いている張本人は菊田の心の内を知らない。

「こんなに暇だったら勘が鈍っちゃうわ。ねぇ、きくひゃぁあ!」
「え!?」

突然姫川が下りる勢いのまま前のめりになり転びそうになる。
その瞬間に菊田は姫川の腹の部分に腕を入れ、後ろ手で手すりに掴まりその勢いをなんとか堪えた。
落ち着いて姫川の足元を見ると、ヒールの踵が取れ転がっていた。

「危なかった〜」

姫川は菊田の腕に掴まり、「死ぬかと思った…」などいいながら安堵している。
すると突然、さっきまで菊田の腕を掴んでいた手が外れ、その場にしゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか?主任」
「…う、うん…。大丈夫…」
「?」

菊田は反応がおかしくなった姫川を後ろから覗き込むが、すぐに顔を逸らされた。
とりあえず無事ならいいかと、階段に転がっているヒールの踵を拾う。

「靴、履けなくなっちゃいましたね。どうします?」
「…すぐ近くに靴屋があった気がするからそこで新しいの買うわ」
「ああ、あそこですね?車出すまでもないからおぶりましょうか?」
「は……?」

姫川は言われている意味が分かっていないのか呆然としていたが、急に顔を真っ赤にして慌てだした。

「な、何言ってるのよ!すぐ近くなんだから歩いて行けるわよ!」
「でも、もし怪我でもしたら大変ですよ?帳場が立ったらどうするんですか?」
「そ、その時はなんとか根性で乗り切るわよ!いいから!ほんといいから!」

何がそんなに気に食わないのか菊田はわからないが、もしもの時を考えてみても歩いて行かせることはできない。
菊田は未だに否定を続けている姫川の横に立ち、背中と膝の下に腕を差し入れ持ち上げた。

「ちょっ、ちょっと菊田!!」
「いいからジッとしててください。すぐですから」
「すぐじゃなくて!ちょっと!菊田!!」
「イタッ、痛いですって主任」

階段を一段一段下りる度に姫川の抵抗は強くなり、菊田は背中を叩かれながらが階段を慎重に下りていく。

「お願い、菊田!おんぶにしてちょうだい!前はイヤッ!!」
「後ろは俺がイヤッすよ。だから前で我慢してください」
「どうしてイヤなのよ!こっちの方が恥ずかしいでしょ!」
「だって後ろだと……」

確かにお姫様だっこは恥ずかしいが、おんぶに比べればなんでもない。
その理由はおんぶになれば、確実に体は密着し、しかも姫川の胸が背中に当たる。
そうなれば、我慢なんてできないだろうと菊田は姫川を見下ろし、溜息をついた。

「なによぅ。その溜息は!」
「イタッ!」

ジンジンと痛む背中を抱えたまま、腕の力は抜かず慎重に階段を下りきり、玄関口へと向かった。

「菊田のバカァア!!」



fin




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