俺だけみてよ





久しぶりの休日が訪れ、俺は部屋の中でまったりと過ごすことにした。
4月にCB学園に着任してから尋常じゃない忙しさに追われ、休みという休みが取れず気付けばもうすぐ夏休みを迎えようとしている。
4月は4月で先生たちとの交流と、生徒たちとの交流で精神をすり減らし、5月には告白をしてきた生徒が現れ、全てが狂わされた。
告白してきた生徒は男子で、名前はニール・ディランディという。
告白を受けてからというもの、毎日会いに来ては「好きだ」「俺のものになって」などを言い出す。
毎日のように愛を囁かれ、俺自身もどこかおかしくなったのかニールに惹かれるようになった。
そしていつの間に俺たちは結ばれ、現在恋人同士となっている。
「恋」というものが信じられなかった俺にできた初めての恋人となった。




俺だけみてよ




ずっと読もう読もうとして溜まっていた本たちに手を伸ばし、少しの間読書をすることにした。
部屋の隅っこに積まれているのは、歴史書や心理学、哲学書など様々な分野の本が存在している。
昔から色んな分野の本に手を出しては知識を深めてきたが、今でも苦手なものが1つだけある。
それは、『恋愛小説』という類のもので、必要以上に愛を語りだすあの甘い雰囲気に酔ってしまうのだ。
恋人が出来てから勉強のためだと恋愛小説を手に取ってはみたが、15分くらいで脱落した。
しかも恋愛小説には3つくらいに別けられるようで、全て見てはみた。
だが、そこには俺には理解しきれないものばかりですぐに本を閉じてしまう。
俺は俺なりの勉強をしようとしているのだが、上手くいかない。
でも一つだけ小説の中の恋愛と似た思いをすることはある。
それは、どこにいても何をしていても好きな人に会いたい。というものだ。
そういえば恋人であるニールは、休みの日はなにをしているのだろうと考えてみる。
付き合い始めて間もないからお互いを知らないのは仕方がないが、少し寂しい気持ちもある。
便利になった今の時代には、携帯電話という便利な代物があるのだから電話やメールをすればいいのだろう。
だが、電話では口下手な俺ではすぐに終わってしまう気がするし、メールでは短い返事しか返せない気がする。
手にしていた本を机の上に置き、携帯電話を手にとって電話帳を開き『ニール・ディランディ』のページで指を止め、電話をしようかメールをしようか本気で悩み5分くらい見つめていた。
すると突然ディルプレイが着信を表示し、さっきまで見つめていた『ニール・ディランディ』の文字が画面に出された。
電話の着信音は、ニールの番号を登録する時に彼が自分からだと分かるようにと、他とは違う音で登録をしていた。
ニールが最近になって好きになったラブソングが流れ、それだけでも気持ちを伝えてくれる。
その曲を少し長く聴いて、電話に出ることにした。
電話に出ると凄く嬉しそうな声で「刹那」と呼ばれ、俺も嬉しくなって名前を呼び返す。


「なぁ、刹那。今暇か?」
「ああ、暇だが。どうしたんだ?」


と素直な気持ちも告げないまま、いつも通りの声音で返すと、俺の本心を察知したのかニールは笑って「素直じゃねーな〜」と優しく呟いた。


「今からさ、刹那の家に行っていいか?」
「ああ、構わない」
「そっか。んじゃ30分後に行くな〜」


それだけ言うと電話を切り、俺は呆然と携帯電話を見つめた。
突然といえば突然だが、俺自身がニールに会いたいと思っていたから都合はいい。
ニールの家から俺の家まではそう遠くないから、きっと30分もしない内に着いてしまうだろう。
そう思うと周りを見渡し、部屋の中が散らかっていないかなどを見て大丈夫であることを確認したあと、俺は鏡の前に立って朝から寝癖ではねまくっている髪を撫でて整えようとした。
鏡に映る俺の顔は、俺の知らない顔をしていて何だか嬉しそうだ。
そんな顔を見て俺は恥かしくなって頭を乱暴に振る。
赤くなった頬を叩きいつも通りでいようと心に決めた瞬間、玄関のチャイムがなり体が大げさなくらいに飛び上がった。
待っていた相手を向かい入れるために震える手でドアノブを回し、顔を出した。


「よっ、刹那。待った?」
「……待っていない」
「うっそつけ!」


一つ一つの言葉に甘さが含まれていて、そしてそんな声で俺の名前を呼ぶから俺は思わず顔を赤くする。
「そんな真っ赤な顔をして、否定されても全然説得力ないから」と意地悪く笑う。





ニールが俺の家に訪れてから、1時間が過ぎようとしている。
付き合い始めた頃にはしつこいくらいに俺に構ってきたくせに、今日は全然何もしてこない。
しかもニールは今、持ってきていた雑誌を1人で読んでいて、同じ部屋にいるのになぜか違う空間にいるようで居心地が悪い。
隣を見ればまだ雑誌を夢中らしく、俺が見ているのにも気付かない。
俺も何かに集中すればいいだけの話なのだが、ニールが隣にいるのに別のものになんかに集中できない。
もう一度ニールを見ても全然気付いてくれない。
こんな時、どうすればいいとか全然浮かんでこないのは経験がないから。
そう思うと自分の今までを少し呪ってみたりする。
何をすれば相手は自分の方を見てくれるのか、どんなことをすれば相手は自分の名前を呼んでくれるのか。
そうグルグル考えていると、今まで呼んできた『恋愛小説』の中の一つを思い出した。
今と同じような雰囲気で、そして………ああ、そうか。と、一人納得して行動に移すことにした。

ニールを横から見れる体勢に変え、ジッと見つめ、反応がないことを確認し、俺はニールの肩に触れて名前を呼んだ。
名前を呼ぶと素っ気ない返事しか返ってこず、いい加減腹が立ってきてニールの肩を掴んでこちらに向かせる。
ニールが何か言おうと口を開きかけた瞬間、唇にぶつかるように触れて最後にチュッと唇に吸い付き、ニールの顔を見つめた。
俺も顔が赤いだろうが、それ以上にニールの方が顔が赤くて笑ってしまう。
それが見れただけで心の中のモヤモヤが少し薄らいだ。


「せ、刹那さん?」
「俺をほっておいたお前が悪い」
「〜〜っ!!」


顔を真っ赤にさせたまま裏声で名前を呼ばれ本気で笑ってしまった。
いくら場数を踏んでいるといっても、本命の前では初々しい部分が出るもんなんだ!と言っていたニールを思い出し嬉しさでさらに笑ってしまう。
そんな俺を見てニールはうな垂れ「せつな〜」と拗ねた子供のような声で俺を呼ぶ。


「今日は俺が勝ってやろうと思ってたのに…。ずるいぞ!!」
「俺に甘いお前が悪いんだろ?」
「……確かに…。クソーー!!」


悔しそうに叫ぶニールを見てまた笑ってしまう。
「笑うなよ〜」と抱きついてきてうな垂れるニールの頭を撫で、俺は幸せすぎて笑う。


いつまでもお前は俺を見つめていればいいんだ。


俺はもうすでにお前しか見ていないのだから。


他のものに目をやるなんて許さない。






ニールの頬にキスをして抱き締め返した。

〜fin〜


おまけ?


ニールが持ってきた雑誌は家の物件雑誌で、高校を卒業したら一緒に暮らそうと思っていたと照れながら言ってきた。
今はまだ学生としての立場上、親から離れることが出来ないが卒業したら自由になれる。
しかも、学生と教師という立場がなくなり自由に愛し合えるだろ?というのだ。
この先の未来も一緒にいたいというニールを見て、俺は涙を流しながら何度も頷いた。



終わります。


*****

あとがき

クロさまへ

相互リクありがとうございました!
リク通りとはいかず、すみません…!!
やっぱり私の中ではニールが刹那に甘える側の方みたいで……。
もうすみません!これで精一杯です…!

こんな私ですが、よろしくお願いしますっ!!











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