予想通り酔っ払ってフランシス兄ちゃんに連れられて帰ってきたアーサーを大乱闘を巻き起こしながらもベッドに縛りつけた翌日は、珍しくウェルが家にふらりと茶を飲みにきていた。


「グレイスー、あのさ、多分わかってると思うけど、かなり今回のミッションは危ないかもよ?」

「ミッションじゃねーよ、そもそも休暇扱いだぞ馬鹿。はい、お茶菓子」

「アーティ作? ごめんね、今日はお腹いっぱいなんだー」


相変わらずにこにこした表情のウェルは、家で何かを口にさせようとするとぬらりくらりとかわす侮れないやつだ。それが何を意味するのか知っている私は、ウェルのにやけた口に無理やりお茶菓子のスコーンを突っ込んだ。


「もぷっ」

「いいから食えばかちん。それからそれは、残念だけどグレイスさんのお手製だぞ」


紅茶を要求してきたので与えてやると、意地でも崩れないウェルの口元の笑みが若干ひきつっていた。ざまぁ


「グレイシーはお菓子は美味しいのに……このスコーンだって普通に美味しいんだけど……」

「“は”って言うなばか!」

「はいはい……ところでアーティ坊やは?」

「ああ、あの酔っぱらい? 今日はまだ起きてこないよ。二日酔いじゃない?」


もしくは、昨日思いっきりぶん殴ったのがきいているのかもしれない。どちらにせよ情けねーことこの上ないが。


「僕、ちょっとアーティ坊やにお話があるんだけど、行っても大丈夫かなあ」

「んー…起きてるとは思うけど、泣いてるかもしれないよ? それでもいいなら」

「大丈夫だよ。アーティ坊やはグレイスが長期出張に行っちゃうのが寂しいんだね。ちょっと行ってくるー」


踊るように階段に消えていったウェルが視界から消えたのを確認して、手持ち無沙汰になった私は自室に荷物の整理に行った。












「グレイス、ちょっといいか」

「なーにアーティ、寂しいならなでなでしてあげるよ?」

「だから寂しくなんてないんだからなばかぁ! あとアーティって呼ぶな!」


程なくしてウェルは帰り、あっという間に日は沈んだ。

いろいろ否定しつつもアーサーはちゃんと寄ってきたので、約束通りそのもさもさの頭をなでなでしてあげた。アーサーはしばらくは大人しくなでなでされていたけど、手元の荷造り作業の様子を見るため一瞬目を離した隙にガバッと抱きつかれた。


「ちょっと、アーサー?」

「……ウェルがいろいろと入れ知恵してった」

「な、なんだよ。藪からスティックに」

「香かよ!」


荷造りの手を完全に止めて、アーサーをそっと押す。だけど、しっかり抱きつかれているようでその身体はびくともしなかった。


「って、お前荷造り始めんの早すぎだろ! まだ一週間はあるぞ! そ、そんなに早く行きたいのかよ…!」

「違ぇよ馬鹿。あと一週間は仕事もあるし、しかも明後日は会議だし、それに女の子はいろいろと準備するものがあって大変なの!」

「あー……グレイス、そのことなんだけどな……」


ウェルが入れ知恵してった話なんだが、とアーサーは歯切れが悪い話し方をした。


「お前、自分がロンドンだってバレない自信あるか?」

「バレたら潜入捜査の意味ないでしょ。……でも、まあ、一年間か……それはキツいのかも」

「そこでだ、グレイス。変装すんぞ、男の子に!」

「はぁ!?」

「何驚いてんだ、この手のミッションの時はいつもやってるじゃねぇか」

「いやいや、男の子って……そこまでするか?!」

「ばぁか、これは一年という長い間に変な虫がつかないように……って、違う違う。究極的には俺のためだ!」

「なにが言いたいんだかさっぱりだよこのばかちん」


ウェルはいったい何を入れ知恵してったんだ。またアーサーをからかったな。

可哀想なものを見る目でアーサーを見てやると、アーサーは咳払いひとつ。なんだこいつ、紳士気取るの遅すぎる。


「だいたいな、もしお前がロンドンってバレたら、ヴォルデモートの復活を邪魔するお前を傷つけるために、敵がロンドン市街を攻撃してくるかもしれないんだぞ。ほら、結果的には俺のためだ」

「市街を傷つけると本人に痛みが走るって知ってる人、なかなかいないと思うんだけど……まあ、用心に越したことはないか」


私たちは国民の安全を最優先にしなくてはならない。

私がいくら怪我をしてもロンドンは無事だけど、ロンドンが襲撃されると私やアーサーにその余波がくる。なら、捜査中身分は隠すべきだろう。いわゆる男装はやりすぎな気もするが。


「……ん? 男の子……?」

「どうした、グレイス」

「男の子って、私どこに潜入させられるの?」

「どこって、ホグワーツだろ」

「違う、ホグワーツなのはわかってる。司書の先生の助手とか、事務手伝いとかじゃないの?」

「ばぁか、それだと怪しまれずにハリー・ポッターに接触できねーだろ。生徒として、入学させる。ダンブルドア氏から了承は得た」

「はああああ!?」


人差し指と中指で、アーサーはダンブルドア校長から来たらしい手紙を摘んでひらひらさせた。


「えっ、ちょ、まじで?」

「心配すんな、強力な縮み呪文をかける」

「どう考えたってそれほあた☆ってしたいだけだろーがこのペドがあああ!!!」

「ペドじゃねええええ!!!」


どうやら荷造りはやり直しならしい
ざっけんな
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