「アーサー、遅刻しちゃうう!!」

「お前が寝坊するからだろーが!」


んでもって、あっと言う間に9月1日。

私たちは、キングズクロス駅……に向かうため、車を走らせていた。


「だから、昨晩準備がギリギリだったんだって! くそっ、アルフレッドの野郎…!」

「まあ、確かにあれはイレギュラーだったな…」


アルが泊まることになり、私はいったん荷物を全てほどいたのだ。
だって奴は(客室をあてがわれているにも関わらず)必ずと言って良いほど私の部屋に泊まりやがる。いつまで経っても、大きな子供のままだ。

そして私がどこかへ行く素振りを見せれば、詳しく話せとせがまれ、最終的に一緒に来ようとしただろう。だから、秘密。


「見えてきた」


キングズクロス駅、9と4分の3番線。
行き方は知っている。だが、時刻は既に10時50分になろうとしていた。出発は11時ジャストなので、本当にギリギリだった。


「いいか、これだけは守れ。魔法省の役人には近づくな、ハリー・ポッターを常に監視下に置け言いたかねぇが何かヴォルデモートに関する糸口が見つかるまでは片時も離れるな、危ない真似すんな! わかったな?」

「最後のは無理かもしれないけど、了解」

「ばぁか、最後のがいちばん重要だろ」


縮んで短くなった髪の毛をわさわさと撫でられ、アーサーは車のトランクから大きな旅行鞄を持ち上げた。


「手に負えないと感じたら、ダンブルドア氏のところへ行け。それ以外の先生には、お前の話は通っていないからな」

「ずいぶん動きやすい条件だね、それは」

「誰が敵かわかんねー状況だ、我慢しろ。あと、悪いが多分こちらの仕事も、お前のサインがないと先に進まなさそうなものはふくろう便で送る。……さて、ホームはどこだったか」

「向こうだよ」

「ああ。……あと、その口調だな」

「俺とか、だぜ口調でいい?」

「いいんじゃないか。そこは任せる」

「おっぱいもむもむしたいんだぜ!」

「……それはやめとけ」

「冗談だって。俺、頑張るぜ!」

「そうそう、そんな感じだな。……っと、見えてきた。ホームだ」


煉瓦の柵を抜けると、そこには真紅の列車が停車していた。

別れを惜しむ親子でごった返している。


「寂しくて死ぬなよ、ジャック」

「おー、アーサーこそな」


私の偽名はジャック・カーク。

しがない魔法使いの家系という設定だ。
ちなみに、これは本当のことだが、両親はいなくて、兄に育てられたということになっている。


「再会を祈って……お互い生きてまた会おう! アーサー、しゃがめ」

「ずいぶん大袈裟だな」


そう言いつつも、アーサーは私と同じ高さにまでしゃがんでくれた。

トランクを片手に、いつでも走れることを確認した私は、そっと、アーサーのほっぺに触れるだけのキスをする。


「ななっ、ななななな!」

「じゃ、また!」


発車のベルが鳴る。

赤面して固まったアーサーを放り、私はトランクを引きずりダッシュで汽車に乗り込んだ。


この汽車に乗り込んだ瞬間から、私は俺だ。グレイス・カークランドはジャック・カークになる。

楽しい予感はこれっぽっちもしなかったけど、ロンドンのため、ひいてはイギリスのために失敗は許されない。


全ては、平穏な未来のため。


俺の、冒険が幕を開けた。





第一章 完





―――――
キスは挨拶だけどツンデレなヒロインにしてもらったことがなかったアーサー。という設定。

ここまでお付き合いありがとうございました。二章以降は、ブログ連載に本決まりすればブログ内で、本連載に昇格が決定すればメインにて行いたいと思います。
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