「見つけた」
アットホームな雰囲気を醸し出しつつも、それでいて華やかなホームパーティー。その輪の中心からちょっと外れて、ひとり窓際で飲んでいる男を、私は探していた。
今日のパーティーの主催はアルで、名目は誕生日。だからこそ、この男は沈んでいるのである。誕生日とは、アルフレッドが彼から独立した日をアルフレッド自身が記念して、制定した日なのであるから。
「隣、いい?」
「……なんだお前か。好きにしろよ」
「なんだとはご挨拶だね。まあ別に構わないんだけど」
探していた男、名前はアーサー・カークランド。 かつてのアルフレッドの兄だが、現在は彼に独立されてしまったので兄は名乗らなくなった、とかなんとか。どちらにせよ深くつっこむほど、私は野暮じゃない。
「ねぇ、アルにおめでとうくらいは言ったんでしょ?」
「言うわけねーらろ…ばかぁ…」
「……酒、そこでやめときなよ」
「これが飲まずにいられるかってんだ…」
そう言ってアーサーは再びガラス製のコップを煽った。 まずいな、これは。非常にまずい。
「アーサー」
「なんだよ…ひっく…」
「アーサー、だめ」
「俺の勝手だろ」
「確かに飲むのはあんたの勝手だけど、今日はだめ」
紙コップに水を注ぎ渡す。 アーサーは不機嫌そうに紙コップを見つめていたが、やがて諦めたようにそれを口に運んだ。
「昔はさぁ、かわいかったんらよ」
「うん」
「いつの間にか俺よりでかくなるし」
「うん」
「挙げ句の果てには独立だぜ?」
「…うん」
「世界の中心、世界のヒーロー。ほしいもんは全部手に入れちまいやがってさ」
「うん」
「…もう俺の手はいらねーし、兄貴面もほとんどできねーし」
窓の外には、夜景が広がっている。 それらを見下ろしながら、アーサーは呟いた。
「でもなんだかんだ言ってさ、今もかわいいんでしょ。アルフレッドのこと」
「馬鹿言ってんらねーよ。かわいいわけあるか。おい、酒寄越せ」
そう言って、彼は私が持っていたガラスのコップに口をつけた。 諦めてそれを渡す。なんだか(お互いの実年齢はともかくして)年上に見えていたこの男が、酒の力を借りて本音を語った気がして、ひどく可愛げに思えた。
「アルだってなんも思ってないわけじゃないよ」
「おう」
「ちょっとくらい寂しく思ってたと思うし」
「…どうだか」
「明日に生きてる!…って感じだけど、ああ見えてたまには昔のことだって思い出すみたいだし」
「……ああ」
「捨てられないものだって、思い出だっていっぱいあるっぽいし」
古書をくれるというからついていった倉庫には、アルが捨てられない思い出の品がたくさんあった。 偶然見かけたおもちゃの兵隊を指差し、アルは珍しく小声で、「アーサーには内緒だよ」と私に言ったのを覚えている。
「……別に認めてねーわけじゃねーよ」
蚊の鳴くような声で、ぼそり。 つつと顔ごと反らされた目線は、宙を泳ぐ。酔いが回っているらしい。
「なら、良かった。今年はそのプレゼントもちゃんと渡せそうだね」
「ばっ……」
足元のふたつの包み。大方片方は、毎年恒例の何か仕掛けのしてあるダミーだ。
私はその綺麗に包装されている方のプレゼントを奪い、鞄に突っ込む。こちらがダミーだ。彼は非常にわかりにくいが、わかってしまえば実にわかりやすい思考をしている。
本当に酒がまわったのだろう。半分据わった目をしながら、アーサーは小さな包みを手にし、「じゃあガツンと言ってやらあ」と席を立った。千鳥足で私の腕を引き道連れにしようとしたようだが、そんなの丁重にお断りだ。
「がんばれ、アーサー」
今すぐにとは言わない。 ただ、お互いがお互いに素直に認めあえる日が来たら。
そんなことを考えながら見る夜景は、格段に美しかった。
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