曇天の空





「ちょっと。煙草を吸うのなら喫煙所に行って」


「……」




 誰が皆、俺を見ては目を逸らし通り過ぎていたのに。


 無精髭だらけの俺の口元に手を伸ばし、煙草をもぎ取るとその女はキッと睨んできた。




 人込みにいると、嫌でも目立つ190cmの身長。

 そんな俺と、ヒールを履いているとはいえ目線が近い女。


 すらりと伸びた女の手が煙草の火を消した。





「聞いてるの、シルヴァ」

「ん、ああ悪い」



 女の名前はアリーシャ。


 透き通るように美しいブロンドの短い髪は、一糸の乱れも許さぬよう綺麗にセットされている。


 特別美人ではないものの、人の眼を引き付ける美貌や妖艶さ、不思議な魅力を持つ女。




 雪のように白く、なめらかな手触りの肌に触れると、きつく吊り上がっていた眉が少しだけ緩んだ。



「次から気をつける」

「……毎、回、言ってるそれ。ちょっ…と人込みなんだけど」

「仕事終わりだろう、アリーシャ。……“そういう匂う”がする」



 真っ黒なサングラス越しでもわかるくらい白い彼女の肌がカッと赤くなり、『変態』と罵られた。

 だが気にならない。

 本当のことだからだ。もちろん。




《4》

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(しおり)

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