曇天の空
3
人人人。
この世界、どこに行ったって溢れている。
落ち着ける場所なんてどこにもない。
どいつもこいつも、用もないのに出歩きやがって。さっさと家に帰って糞して寝やがれ。
匂いがキツイと“評判”の煙草をくわえると、すれ違ったババァに眉を潜められたが、気にはしない。
構わずに火を着ける。
ガキの頃に必死こいてしたバイト代で買ったライターは、今でも現役。
独特のオイルの香りに、深い煙草のそれ。
火を着けるたびに思う。今の俺ならば、こんなちゃちいライター、苦労のかけらもなく手に入れられる。と。
「ふー……」
脳内に居座ったままの青臭いガキの自分を殺すよう、煙りを深く吸い込み、そして吐いた。
身体に馴染んだ香りで、こんなに多くの人間が集まる場所でも、ようやく心を落ちつけることができた。
《3》
(しおり)