曇天の空

10




 人を殺した後は、何故かひどく人のぬくもりが欲しくなる。



 

 そんな時、必ず傍にいたのは、この女――アリーシャだった。何をしても、どんな事をしても終われば必ず優しく頬笑み、そのあたたかな身体を寄せてくる。

 そのたびに、「ああ、俺はやっぱり生きているのだ」と安堵していることは、これから先何があっても伝えることはないと思う。


 互いに、数え切れぬほどの命を奪ってきたくせに、自分自身はぬくもりを求め救われようとしていることに罪を感じているのだから。

 これ以上の救いなど、必要ないだろう。



「……こしいたい」

「随分とゆっくり寝ていたな」

「喉もいたい」

「まあ、あれだけ喘いでりゃな」


 ぼふ、と枕が背に当たる。

 寝起きでシーツに包まったままのアリーシャは、すでに身支度を整えてサングラスをかけて振り返った俺の顔を見て俯いた。

 もう行くのか、と。言わずとも伝わる思い。


 顔を見ただけで思いが伝わるほど、近しい存在になっていたのだと、どこか寒い気持ちを抱きながらテーブルの上に置いてあった愛銃を懐に押し込んだ。


「お前も、殺し屋なら商売敵の前でぐっすり眠るとかしないようにしろよ」


 どの口がそんな事を言っているのだろうか。

 自分でも驚くほど馬鹿らしい言葉が口をついて出て、ゲスな笑いが漏れた。



 殺し屋――それが、俺が選んだ道。

 人を殺し、生きる為の金を稼ぐ職業。まったく、見事な畜生道だ。





《10》

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