SpecialShortStory
2008. Autumn - 5
そして舞台は一番の見せ場、フック船長との戦いに。
鈎爪を振りかざし襲い掛かるフック船長を軽やかにかわす度に、飛び交う黄色い声援。
「あーあ、これでまたブラックファンが増えるねぇ……」
「本っ当……うっさいこと。
あんなヘタレの何がいいのか」
「ね、俺のが絶対いい男なのにね」
「それもどうかと」
また大きな声援が上がった。
今度は、男子生徒諸君の低いもので。
『サ、――ティンク!』
「「あ」」
ピーター・パンがその目に捕らえたのは、フック船長の部下の手によって籠に押し込まれたティンカー・ベルの姿。
フック船長は核心を得た表情でそれをピーター・パンに向け、告げる。
“相棒の命が惜しければ、短剣を捨てろ”と―――。
卑劣な手を使うフック船長に、ピーター・パンはどう立ち向かっていくのか。
小さなティンカー・ベルの体に、フック船長の鈎爪が迫る。
怯えた表情のティンカー・ベル。
けれど、短剣を捨てては戦えない。
けれど、最愛の相棒を護るには―――けれど魔の手はすでにティンカー・ベルの体に―――
『………おい』
『え?』
『てんっめぇぇ!!
サラに何しやがんだよっ!!!!』
…………。
………。
………。
『はい、チームピーター・パン、失格』
『はっ……!!
ちょ、今の無し!』
『却下です。お疲れ様でしたー』
チームピーター・パン。
主役が現実と演劇の区別がつかなくなり、中盤にて敗退。
「ブラックのばか……」
台詞が無い分、演技力でがんばっていたティンカー・ベルことサラは恥ずかしさでうなだれた。
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