SpecialShortStory
2008. Autumn - 4
大きな歓声と拍手の中、一人の少年が夜空を翔ける。
羽もない体が軽やかに、俊敏に。
少年は立ち止まり、振り返る。
『おいサ……んんっ、ティンク、ここでいいのか?』
少年の肩に降り立った、羽の生えた掌程の小さな小さな金髪の少女は嬉しそうに頷く。
月が見守る中、二人はある部屋の様子を窺う。
『……しずかにな、みつからねぇようにそーっと……』
彼の名前は、ピーター・パン。
無くしてしまった影を取り戻す為に、遥か彼方の国ネバーランドから相棒のティンカー・ベルと共に旅をしていたのだった。
「うぬー……あの魔法すごいなぁ……。サラ、本物の妖精みたいだね」
「本当、ブラックも自然に飛んでるし。
でも安心ね」
舞台袖で見るテッドとリサは笑いそうになるのを堪え、声を揃えた。
「「ブラックが棒読み」」
二人は互いに吹き出した。
なんと主役の彼は大変なことに大根役者。
そのうえ、相棒であるティンカー・ベルをサラと何度も呼ぼうともしていた。
そんな危うい状況の中、演技は順調に進んでいきついに彼らはネバーランドへと舞い戻ることができた。
- 53 -
[*前] | [次#]
しおりを挟む
【戻】