Present
You Are - 5
「………」
あの頃と変わらない寝顔。
変わってしまったのは私?
それとも、ブラック。あなたの方なの……?
「まだ呑気に寝てんの、そいつ」
「先生……」
つかつかとヒール音を鳴らし、近付く保健医。
こうしてブラックがベッドを占領することにも慣れたのか、特別困ったり焦ったりの表情は浮かんでいない。
「ったく、毎度毎度飽きずに喧嘩なんてよくできるわよね。
……で? 今度の原因は何なの?」
「あ……」
言って、みようか。
戸惑う表情を浮かべたサラに対し、保健医は静かに先を促す。
それに安堵し、ためらいながらも口を開く。
「……ブラック、私には何も話してくれないんです。昔と変わらない筈なのに、なんだか最近……彼が遠い」
ちらりとその寝顔を見れば、憎たらしい程穏やかで。
やっぱり、変わってしまったのは私なの?
ただ、私が卑屈に思ってるだけなの?
「……先生?」
「ま、あんたが気にすることはないんじゃない? セイ少年のささやかなかっこつけ、だろうからさ」
意味がわからなくて首を傾げる。
先生の手に引っ張られたブラックの頬が痛そうで、笑みが零れた。
穏やかだったブラックの寝顔には、眉間に深い皺が刻まれてて。
「むー……」
「こういうね、頭で考えるより体が動くバカのすることは気にしなくていいの。
……いずれわかるさ。だからアンタは今までと同じよう、傍にいてあげなよ」
バチリと引っ張っていた頬を離すと、少し赤くなっていて。
それでも彼は惰眠を貪る。
「先生……」
「さ、私は今から職員会議だから。そいつ起きたらさっさと教室に連れて行っといて」
そう言い放って出ていく先生の口元には、笑みが浮かんでいて。
ためらいながらも暖かなブラックの手を取った。
「私……傍にいても、いいのかな? 支えにはなれないけど……傍にいたいの」
絞り出すような呟きは、そっと風に乗り―――消えた。
そこに残ったのは、2人分の寝息。
ただ、それだけ。
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