Present
You Are - 4
『まだ寝てるの?』
ふと背後から声を掛けられ振り向くと、保健医が立っていた。
『うん、まだねてる。ねぇ、この子……どうしてこんなに悲しそうなのかなぁ?』
『………』
ベッドで眠る少年は眉を寄せうなされていて、何かに怯えているようで。
固く閉ざされた瞳が世界のすべてを頑なに否定しているようで。
保健医は重く、息を吐く。
『傷を……負ってるのよ。私じゃ癒やせないような、大きな大きな心の傷を』
『いたいの?』
『えぇ、きっと……とても痛いわ』
浅く荒くなった呼吸のまま、少年の右手が何かを求めように、動く。
少女はそっとその手を掴み、胸元に抱き込む。
『だいじょうぶ。サラがそばにいるよ。もう悲しいことは、なんにもないんだよ?』
『……サラ……』
この時代、戦災孤児がまだ少なくはなく、少年と同じように悲しみや憎しみを抱えたこども達がどれだけいただろう。
そんなこどもに救いの手を伸ばすのは、……また同じ境遇であるサラ。
両親はおらず、自身も寂しい思いをしているだろうに。
ふわりと微笑み、しっかりと手を握りしめると少年の顔も和らぎ、荒かった呼吸もやがて落ち着きを取り戻していた。
しっとりと浮いた汗を拭ってやると、少年の閉じられた瞳から一筋、涙が滑り落ちた。
少年の名はブラック。
少女の名はサラ。
2人の出逢いは偶然で。
必然的、だったのかもしれない。
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