Present
それならば、月 - 12


「行きましょうか」


 レーイはソフィアナを見ないで彼女の肩を抱くと一歩前に足を出し、遅れてソフィアナが歩き始めた。
 窓の外には赤く身を染めた太陽が傾き始め、二人の影を長く伸ばす。

 レーイは指を鳴らそうと手を首元らへんまで持ち上げた。
 指を鳴らさなくても魔法を使うことはできるのだが、そこは雰囲気だ。
 レーイは瞳だけ動かしてちらりとソフィアナの様子を伺ったが、ソフィアナは無表情なまま前を見ていた。

 ふぅ、とレーイはソフィアナに気付かれないようにため息をつき、指を鳴らそうとした。


「ソフィアナちゃん!」


 ソフィアナは目を見開いてドアに目を向けた。
 サラが立っていた。


「行っちゃうの? 私に何も言わないで行っちゃうんだ……」


 サラは独り言のように呟く。
 ソフィアナはなにも言わずにレーイの服の裾をクイクイっと引っ張ると、サラから顔を背けるように後ろを向いた。


「それでは、参りましょうか」


 レーイの柔らかな声が夕日に消えて、男は静かにサラに頭を下げる。
 男の頭がゆっくりと持ち上がり、サラの目に藍色の瞳が映ろうとしたとき、ソフィアナはサラに向かって走り出していた。


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