Present
それならば、月 - 11




「羊、お前は迎えに来るのが遅い! なにをちんたらやっておったのだ!? お前のお陰であのたれ目の変態の相手をする羽目になったのだぞ。どう責任とってくれる?」

「姫様、そんなに一気に捲くし立てないで下さいな。これでも私は姫様のことを一生懸命捜したのですよ」


 ソフィアナは小ばかにしたような目つきでレーイを見て、鼻で笑った。


「お前の一生懸命さはこんなものか」


 ソフィアナはレーイの脇を通り過ぎて、ドア枠に手を掛け、顔だけ振りむいて男に向けた。
 その顔に浮かぶのはいつもと同じ強気な表情で、瞳は真っ直ぐにレーイに向けられている。


「だが、お前がとろいお陰で私は月の化身と出会えた。今日は特別だ、許してやる」


 ソフィアナの表情は相変わらず強気な表情だったのだが、少しだけ、ほんの少しだけ、瞳の光が優しく揺れた。
 すぐさまソフィアナはレーイから顔を背けると、行くぞ、と呟いた。

 レーイはしばしの間黙っていたのだが、意を決し言葉を口に出した。


「姫様、サラさんに別れの挨拶はしなくてよいのですか?」

「……しない」


 左様ですか、とレーイは感情のこもらない声で返事をした。
 ソフィアナは後ろを向いて黙ったまま、金色に輝く髪の毛の一束ですら揺れずにいた。




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