Present
それならば、月 - 8
レーイは、それはもう眩しいぐらいの満面の笑みを浮かべたが、リサの目には男の頭上に陳腐な花が浮かんでいるようにしか見えなかった。
「……わかったわよ。アンタのようなアホにサラがやられるわけないしね」
リサは目を伏せ後頭部に片手を当てて、疑って悪かったわよ、呟いた。
それを見て羊より喜んだのはサラだった。
サラが穏やかに微笑むと、空気が柔らかくなる。
「リサは羊さんと仲良くなったみたいだし、私は妹の様子を見てくるね」
サラはふふふ、と堪え切れずに笑い声を溢し、羽ばたく小鳥のように身を翻して去っていく。
一度だけ振り向いて手を振り、その時、サラは本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
レーイとリサは魔法にかかったかのようにその笑顔に見とれていた。
リサがハッとした表情を浮かべた時にはサラはいなくなっていて、彼女はうめき声を漏らした。
「わ、私はこの人となんか仲良くないわよー!」
リサは力いっぱい叫び終わると、糸が切れてしまった操り人形のように首を折った。
彼女の頭上に雨雲のような暗く重苦しい雰囲気が立ち込める。
「えっと、まぁ、これから仲良しになればいいかと私は思うのですが、いかがなものでしょう? なかなか悪くない考えではありませんか」
リサはレーイの能天気な発言に重いため息を吐き、頭を抱えた。
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