Present
それならば、月 - 5
「ご、ごめんなさい。嬉しくて、つい……。でも、私、貴方のお知り合いとさっき出会っています。たぶん、そうだと思います」
その人は自信なさげに言葉を紡ぎ、背の高いレーイを不安げに揺れる瞳で見上げる。
その姿は薄く残った赤い頬と相まってとても可愛らしい。
――私の姫様もこのような可愛らしい表情が出来るといいのですが。
レーイはしかめっ面したソフィアナの顔を思い出して、やれやれといった笑みを浮かべた。
「あ、私としたら失礼なことに名を名乗っていませんでしたね。私は姫様に、羊、と呼ばれています。貴女もそうお呼び下さいませ」
「羊……さん、ですか。あ、私はサラ・インバースです。サラ、でいいです、けど……」
サラは男の名前が羊だと知ると、途端にあたふたし始めた。
レーイが不思議に思って声をかけると、サラはしばし黙り込み、やがて小さな声で説明し始めた。
「あの、ごめんなさい。私の……勘違いでした。あの子が捜している人は“執事”なんです」
「そうですか……執事……いえ、気にしないで下さい」
レーイはサラに優しく微笑みかけたのだが、彼女の表情は沈む一方だった。
サラの伏せた睫毛が彼女の頬に影を落とし、無防備に開いた唇は何度か言葉を発する素振りを見せる。
しかし騒がしく左右に動いていた眼が止まると口を一文字に結んでしまった。
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