Present
それならば、月 - 1




――お嬢ちゃん、迷子なのかい?

――どうしてなにも言わないの?

――自分の名前を言えるか?


 ソフィアナを中心に円を描いて囲む人々から、立て続けに言葉が発せられる。
 誰の声なのか、なんと言っているのか、それすらわからないほど言葉が不快な音となって彼女の脳内で響いた。

 不意にソフィアナの視界がぐらりと歪み、小さな体が支えを失って崩れ落ちると、彼女を取り巻く人々は一斉に息を飲んだ。
 しかし、誰一人としてソフィアナに近づこうとする者はいない。
 口先はソフィアナの身を案じているのだが、多くの目が好奇の色を隠しきれずに卑しく光っていた。

 ソフィアナは弱さをみせたくない、その一心で背筋を伸ばして前を見据えるが、視点があちらこちらに揺るいでしまう。
 意識が、現実から遠のいていく。

 ゆっくりと目蓋を下ろしていくと、感覚が外部から遮断されて無音の闇に包まれる。
 一切の騒音を排除した世界は静かで心地よかった。

 目を閉じてどれぐらいの時間が経ったのだろうか。
 何かがソフィアナの頬に触れ、その何かに誘われるかのように、彼女は目蓋を持ち上げた。

 ソフィアナの目の前に、美しい少女がいた。
 金色に輝く髪の毛が眩しい。
 水色の瞳は穏やかな光に満ちていて、白く透明感のある肌に映えていた。


「大丈夫?」



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