Present
オニキスの少年 - 18



 あおいが笑うのを黙ってみていた。
 この坊ちゃんの言うとおりなら、やっぱり夢、だったのかな。

 でも、魔族のぎらついた目、叫び、臭いが脳裏にこびり付いているのに、ブラックの勝ち誇った顔や声、温もりがまだ肌に残っているのに、夢、という一言で終わらせたくない。

 あたしは時間をかけて笑う。
 あたしね、あおいじゃないひとにー―。


「キスしちゃった。漆黒の髪の毛と瞳のカッコイイ男の子に」


「えっ、いつ? どこで?」


 あおいがあんまりにも慌てるから、つい意地悪したくなっちゃって、ブラックみたいに自信に満ちた顔をして呟くの。


「教えてあげない」


 あれが夢であっても現実であっても、どっちも同じこと。
 あたしは確かにあの黒髪の少年と出会った、自信持って言える。

 頬にキスしたら真っ赤になっちゃって、かわいかったな、ブラック。
 黒髪の少年が真っ赤になった顔を思い出すと、クスリと小さな笑みがこぼれ、あおいがそれを見てすね始めた。


「もしそれが夢の中でも嫌だ」


「夢じゃー―」


 ないもん、と言いたかったのに唇をふさがれて、行き場のない言葉は静かに体の中に戻っていく。
 ゆっくりあおいの唇が離れて、こげ茶色の瞳を見ながら、最後にブラックに見せたあの笑顔を浮かべる。


――その笑顔の先の、リリアンの好きな人が羨ましいな


 ねぇ、あおいはあたしの笑顔を見てなにを思うの?

 あおいは驚いた顔をしながらじっとあたしの顔を見る、その顔は少し間抜けだけど、かわいいと思うあたしは変なのかな。

 あたしが立ち上がるとこげ茶色の瞳が後を追ってくる。
 あおいは座ったまんま、あたしは歩を進めて離れて、物置の戸の前で立ち止まった。


「バーカ」


 悪態ついているのに、笑みがこぼれてくる。
 そんな顔を見られたくなくて背中を向けたまま、戸を通り抜け、閉めてあおいの姿が見えなくなると振り向いた。

 あおいの思っていることなんてお見通しだよ、バーカ。





End


⇒あとがき



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