Present
オニキスの少年 - 15
「これ使っていいから」
羽織っていたマントをあたしの体に巻きつけて、立ち上げると黒髪はおぼろげな三日月の光を受けて薄く光り、そのまま離れていく。
「ブラック!」
振り向いた顔には表情が浮かび、あたしを見ている。
「ブラックは、寒くないの?」
語尾に近づくほど覇気のなくなる。
だって本当に言いたいことはそんな言葉じゃないのに、謝りたいのにその言葉さえまた傷つけそうで言えない。
傷つけそう、だなんてあたしの主観でしかない。
本当はこんなにもブラックの気持ちを揺るがす、見たこともないサラさんにちょっと嫉妬を感じていて、謝れば認めてしまう、そんな気持ちがあった。
「もう寝ろ」
ブラックの言葉には悲しみなど微塵も含まれていなくて、強さがあった。
その強さがガラスのように簡単に崩れ去ろうとわかっていても、それを支えるのはあたしじゃない。
きっと、サラさんだけ。
突然眠気が襲ってきた。
眠りたい気分じゃないのに、なのに抵抗できずに深く引きずり込まれていく。
これはあたしの意思ではなくて、なにか違う別の――。
****
目を覚まして、一瞬ここがどこかわからなくて、でもすぐに状況は飲み込めた。
重たい頭を持ち上げて、どこか遠くに視線を投げかける黒髪の少年を見ていたら、すぐに気付いて、いびきがうるさかった、と言って笑った。
「ごめん」
昨晩の気分が抜けきらないあたしは、ろくに視線を合わせることもできなかったが、ブラックは気にしてないのか、むしろ何もなかったかのように振舞う。
「冗談だっつーの。本気にするな」
喉を鳴らして笑う少年を見ていると、なんだか気にしているのがバカらしく思えて、スーッと氷が解けていくみたいに心のわだかまりが消えていく。
眩しい朝日にブラックの黒髪は照らされ輝いて、その輝きを見たことあると気付いた。
ポケットに手を入れて人肌にぬるくなった、ここにくる原因にもなったオニキスが埋め込まれた十字架を握る。
ブラックにそれを見せたら、目をまん丸にして驚いていた。
人間、驚きすぎると声が出なくなると思う。
だってブラックは魚みたいに口をパクパクさせているから。
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