Present
オニキスの少年 - 14
「お前、男みる目ないんだな」
「そう、かもね。でも、笑った顔とか優しい顔とか見ていると好きだな、って思うの」
心がほっこり温かくなって、さっきまで冷え切った体が嘘みたいに熱を持ち、あおいの顔がちらついた。
「ブラックは、どうなの?」
さあね、って曖昧な返事をして話を逸らそうとするから、あたしだけがそんな話したのじゃ恥ずかしくて、会話を引き戻した。
「ブラックが好きなのは、リサ、さん?」
それはブラックと出会ったときに聞いた、女の人の名前。
「リサは友達。オレが好きなのは、サラだけだ」
サラ、と言うときだけ妙に優しい言い方になって、それで少し照れるから、どんなに好きなのかは言われなくても伝わってくる。
「サラさんって美人?」
「当たり前だ! 黄金色に輝く髪の毛がなびくたびに、どれだけの男がため息をつくかなんて、リリアンには想像もつかないだろ。透き通った水色の瞳が優しく細められる表情がどんなにキレイか――」
ブラックは急に言葉を区切って緩んだ頬を引き上げ、白々しく咳きをした。
「サラさんのことどんなに好きで、どんなに美人なのかはブラック君のこと見ればよーくわかりました」
「なんかバカにしてないか?」
ブラックが怒ったようにこっちを見下ろすが、全然怖くない。
だってまだ少しニヤケ顔が抜け切れていないから。
「ねぇ、どうしてブラックはサラさんと一緒じゃないの?」
それは、ほんの些細な疑問だった。
思ったことを口にしたら、その言葉がでてきただけで、ブラックにこんな顔させるつもりじゃなかった。
表情は消えてなくなり、黒い瞳にはなにも映さず、ただ顔をこちらに向けているだけ。
そんなブラックを見ていると怖くなった。
怒られるから、とかじゃなくて、このまま消えていなくなりそうな、その脆さが怖い。
いつの間にか黒い瞳に光が戻って、悲しみの色で大きく揺れ、それをみて不謹慎だけど、嬉しかった。
ブラックはいなくならない、今はまだ悲しみだけど、サラさんへの気持ちがその胸の中にあるから。
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