Present
オニキスの少年 - 8


 その音は近づいてくるがあたしは顔を伏せたままで、それが僅かな光を遮って影を作ってあたしの上に落ちたのもわかる。
 それが作る影の中であたしは動かず、またそれも黙って見ている。


「寝てんのか」


 聞き覚えのある声に反応して顔をあげると、声の主と目が合い、その人はすかさず布を差し出した。


「顔に血、ついている。これで拭け」


 あたしは素直に従って顔を拭いた。
 さっきの言葉は血より涙を拭けっていっているように聞こえた。
 やっぱり悪い人じゃない、と思う。

 布から顔をあげれば、森の暗さより深い黒の髪の毛と瞳をもった少年を、目に映すことができる。

「あっちに夜露を防ぐのにちょうどいい洞窟があった。こっち来い」


 ブラックの後をついて行くのだが、膝の痛みが気になって、どうしても少年の速さについていけず差が開いてしまう。
 途中で黒い髪の少年は立ち止まり、振り返った。


「お前、その膝――」


「あ、大丈夫だよ。ちゃんと歩けるから」


 黒い瞳はなにも言わずにこちらを見ていた。
 心配かけないように愛想笑いを浮かべたのが、気に障ったのかな。




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