Present
オニキスの少年 - 5




「燃えろー!」

 あたしの叫びは虚しく響いただけで終わり、唸り声を上げている獣はジリジリと間を縮めてくる。
 箒の柄を胸の前で強く握り締めて、音を立てないように少しずつ後退していたが、突然正面にいた獣が大きく唸り牙を向け突進してきた。

 体が震えて動かない。
 あの牙があたしの体を突き抜ける姿が頭の中を横切る。

 助けて欲しくってブラックの方を見るが、あの黒い瞳は一際大きい親玉みたいな獣に向けられていてあたしに背中を向けていた。

 どうしよう。

 震える足で立ち上がり無我夢中で逃げるが、すぐに足がもつれ小さな石をきっかけに前のめりに倒れこんでしまった。
 その拍子に箒は手から離れ音を立てて転がっていく。

 すばやく振り返ると牙をむいた獣はすぐそこまで迫っていた。

 膝から血が出ていてジンジンと傷むがあの牙に刺されたらこんなものの痛みでは収まらないだろう。
 だけどあたしになにができるっていうの?
 迫りくる恐怖から目を逸らしたくて目を瞑った。


「バカ! 闘えないなら最初からそう言え!」


 恐る恐る目蓋を開けると、日の光を受けて、逆光になって黒く塗りつぶされた少年が立っていた。

 ブラックは剣で獣の白い牙を受け止め、力任せに弾き飛ばす。
 獣はよろめきながら二、三歩後ろに下がった。


「親玉を倒したのにコイツらまだやる気だなんて、アホだな。だがいくらオレでも、お前みたいな足手まといを庇いながらコイツらの相手はめんどくせぇ、逃げるか」


 黒い瞳には余裕があった。

 ちょっと泣きそうになっていたあたしとは違ってこの状況を恐れていない。
 同い年ぐらいの少年なのに、と少し悔しくなる。

 ブラックはあたしの腕を引っ張り軽々しく肩に担いだ。
 すごく間抜けな格好だってわかっているのに、力の入らない体ではなんの対抗もできず、その格好のまま獣から逃げ出すことになった。


 獣達は叫びながら集団で追いかけてきたが、ブラックの方が速く、あっという間に獣達の姿は小さくなって消えた。

 この少年は何者なのだろうか。



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