Present
オニキスの少年 - 3
「オレはブラックだ、よく覚えとけ。リリアン、と言ったなお前。大方見習い魔女かなんかで、箒で移動中に何かの拍子で落っこちたんだろ? 間抜けそうだし」
「誰が間抜けですって?!」
「しっ! 静かにしろ!」
ブラックと名乗った男の子はすばやく後ろを向いてあたしを背中に隠し、そのせいで視界が遮られ前が見えない。
「へぇ、雑魚がオレに何の用事だよ? 遊びにきたのか?」
ブラックがバカにしたような話し方をする、その奥で獣の唸り声みたいのが聞こえた。
「やる気みたいだな。わかった、遊んでやるよ」
この位置からでは黒髪の男の子の横顔しか見えないが、黒い瞳は真っ直ぐ前を捉え、しかも自信に満ちていて、手早く剣の柄を握ると一気に鞘から引き抜いた。
軸足を蹴り上げるとブラックの体は風のような速さで前に飛んでいき、剣を低く構え、迷うことなく振り上げる。
攻撃の矛先にはブラックと同じぐらいの大きさで顎からは二本の鋭利な牙が生えているイノシシに近いがみたこともない生き物。
鈍臭そうな見た目と裏腹に俊敏な動きでブラックの剣先から身を引いたが、ブラックはそのまま勢いを緩めず円を描くように回転し一本の牙を切り落とした。
片方の牙を失った獣は雄叫びを上げると残った牙を少年に向けて突っ込んでいく。
しかし黒髪をなびかせて舞うように避けると、勢い余って通り過ぎていく獣の首に横から剣を振り下ろした。
そして獣は張り裂けそうな叫びをあげながら獣の体は地面に沈み込んでいく。 地響きを起こして倒れこむとそのまま動かなくなり、小さな目はどんよりと曇り、焦点が定まっていない。
絶命していた。
その隣で冷ややかに獣を見下ろしていたブラックは、剣についたどす黒い血を上から下に振り払い、あたしはよくわからないままその姿を見ていた。
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