Present
オニキスの少年 - 2


「うわっ! そこの人どいてください!」


 声に反応して黒髪の人が振り向いたときにはもう遅く、あたしの体はその人の上に落っこちてしまった。
 そしてあたしの頭の上に何かが落ちてきて、地面に転がっているのは愛用の箒だった。


「痛かったー」


 箒が直撃したところを手でさすり、辺りを見渡す。
 木々が生い茂っていて、ここだけ木の数が少なく開けた場所になっている。


「痛いのはオレだ!」


「うわわわ! ご、ごめんなさい!」


 我に変えると、あたしは慌てて下敷きにしている人の上から降りて正座した。

 黒髪のその人はゆっくり立ち上がりこちらを見下ろし、髪と同じ黒い瞳の整った顔立ちの男の子だった。
 艶やかな黒髪は風にさらりと揺られ、闇のように深く吸い込まれそうな眼差し。
 眉間にしわを寄せてかなりご機嫌斜めなご様子で、ただなにも言わずあたしを見下ろしていた。

 しばらく黙ってあたしは目の前の男の子を見上げていて、先に沈黙を破ったのは黒髪の男の子だった。


「お前、魔族の気配はしないが何者だ? 一体どこからやってきた?」


「えっと……この上?」


 あたしは愛想笑いを浮かべて真上に向かって指を向けた。
 頭の上には青空に広がり雲が数えるほど漂っているほか特になにかあるわけでもない。


「オレをバカにしているのか?」


 黒髪の男の子は表情一つ変えずにあたしの鼻先に剣を向けた。
 あんな重そうな剣を片手で軽々しく扱うなんてよほど鍛えているのだろうなとのん気に考えていたのだが、でも何で初めて会った人にこんな風に偉そうにされなければいけないのだろう?

 手にしている十字架のネックレスをぎゅっと強く握るとなにも怖くなくなった。


「バカになんてしてないわよ! あたしだってわけわからないのだから! メイド長に言われて物置の掃除をしていて気付いたら空から落ちていたの!」


 男の子を強く睨む。
 なんとなくだけど、こんな態度をとっても黒髪の男の子はあたしに危害を加えるつもりなんてない、と思ったから。


「うるさいやつ。リサみてー」


「リサ? リサじゃないわよ! リリアンです! アンタの名前は?」


 黒髪の男の子は剣を鞘にしまい、あたしの傍に転がっている箒を拾い柄の部分を差し出した。



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