【火種の曜日】


「ジン、まってよ!」


前を走るジンを、私はいつもひたすら追いかけていた。

私はくじら島という自然の豊かな小さな島で新しく生を受けたのだが、
子供は私とジンという年上の男子しか居ないというすごい田舎島だったので
遊び場はあっても、私の遊び相手はジンしかいなかった。
身体が子供になったことで精神的にも子供に戻ったらしい私には遊びは重要なものだった。
だから私はジンと遊びたいのに、彼は私に目もくれずに森で一人ひたすら遊び倒していやがるのだ。
追いかけても置いていかれるし、私が何か言っても適当にあしらって先を急いで行ってしまうし、
何て言うか、酷い奴である。こんないたいけな小さい子を置いていくなんて!
お兄さんとして失格だよ!


「まってって、ば!」

「ミト遅ぇ。また置いてくぞ」

「足のながさがまだ、ちがうの!」

「お、ホントだ短ぇな」

「これからながくなるの!」

「そーかそーか」


ほらあしらわれた。むっかつく。ちょっと私より長生きしてるからってこのやろう!
実際は私の方がずっと長生きなんだからね知らないでしょう!!はんっ
ちょっと悪態をついているとジンはごちゃごちゃ言ってると先行くぞ、とさらに速度を上げた。
その時私はジンの体力に、計り知れない可能性を見た。見てしまった。
私はこいつに敵わない。例えば私が男でも、ジンと同い年でも年上でもきっと変わらない事だっただろう。
そんなことわかりきっている。

きっといつかジンはいつものように私を置いて遠くへ行ってしまうんだろうなと、なんとなく思った。
そうしたら私はこの人をもう追いかけることもできないんだろうね。
それは、確信に近い私の勘であった。そして将来事実になりうる、未来予想図。

そんな事を考えて、ぼんやりと先を行くジンを見ていたらジンが突然振り返った。
きらきらした目が私をとらえる。私もじっとジンを見つめかえした。
その時ジンが何かいいかけたのだが、どういうわけかその時の私の耳には入ってこなくて、


「あ。」


ジンがそこには段差が、と言ったにも関わらず、
私はその段差につまずいてそれはもう盛大に転んだのである。
それを見て焦ったように駆け寄ってきたジンを見て、私は何故だか、泣いてしまった。


(それは転んだ時にできた傷の痛みからか、それとも)


***

誰だよこれジンさんかよこれがあのジンさんかよ。

130124
火種の日曜日
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