【思い出話の×曜日】
「それで?ジンはどうしたの?」
身を乗り出して無邪気に笑う少年。
きらきら輝く目は本当に彼奴にそっくりで、私は思わず苦笑いした。
少年、ゴンは彼奴の子だ。あいつが私に預けた、あいつと誰かの子。
ジンはやっぱり遠くへ行ってしまった。あいつはハンターになったのだ。
いつも、頭では納得していたけれど心の何処かではやっぱり納得できない自分がいて、
ジンが出ていくと言い出したあの日、私は大泣きした。手がつけられないくらい泣いた。
それでもジンは出ていった。ずっと前から、決まっていた事である。
それからずっと物足りなくて、いつかの記憶はあたたかったけれど、私はやっぱり悲しくて何処か不幸せだった。
そうして何年かたった、ある日の事。
『え、何その子』
『開口一番それか。こいつは俺の子だ』
『…はぁ!?アンタ何、結婚したの!?』
『いや、別れた』
『…は?』
『それでな、コイツを預かってほしい』
『……アンタは此処に残らないの』
『ああ、俺にはまだやることがある』
『…最低ね』
『解ってる』
あーあ、ジンったらこれを期に此処で暮らせば良かったのに。
ずっと前から、一緒にいれないことはちゃんと理解してたけどね、
一緒にいたいとはいつだって望んでたんだよ。
大体、何いっちょまえに子供なんて作ってんのよ、育てる気もないくせに。
あーあ、あーあ、私可哀想。ねぇジン、あなたが此処に残るなら、私がお嫁さんになってやってもいいよ。
なんて。馬鹿みたい。やっぱり私はジンに恋をしていたのだろうか。
そうしてジンに預けられ、私が大事に育てたゴンも今やハンターで。
どうしてそんなにこの親子は、ハンターにこだわるんだろう。
さっぱりわからないし私は今は幸せだけど、やっぱり哀しいのだ。
何で、どうしてみんな置いてっちゃうのかな。
ーーそれは、きっとハンターが楽しいからなんだろう。
いつだったか忘れてしまったけれど、ずっと前に、ジンが本を読んでくれた事があった。
その時読んでくれた本は、ハンターについてのものだったと思う。
それを読んでいるジンは、目をきらきら輝かせていた。
私に楽しんでもらおうとかそういうのは無しで、
自分が何より楽しそうだったのだ。
「ねぇ、ゴン」
「なに?ミトさん」
「ハンター、楽しい?」
私が問うと、ゴンは一瞬驚いたように目を見開いたあと、
大きな目をきらきらさせて、とびっきりの笑顔で答えた。
「まぁね、楽しいよ!」
何度聞いても答えは変わらない。ちゃんと知っていた。
それは何れくらい楽しいのか、果たして大事だったものを切り捨ててまでやりたいものなのか、
私には何もわからないけど、それだけは変わらないのだ。
「ねえ、聞かせて。ハンターの話」
「え?」
「私、知らないから」
「……うん!」
生き生きとして話すゴンを見て、頬が緩んだ。
楽しいなら、しょうがない。哀しいけれど私は、私には
あの日の記憶がまだ鮮明に残っているから、大丈夫だ。
いつか、もう一度ジンが帰って来たのなら
今度は笑顔でおかえりって言って、思い出話でもできたらいい。
130729
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