【終戦の曜日・夜】


ジンに手を引かれ、家に帰る。会話はない。
私は空を見上げて、改めて今が夜遅くなんだと実感した。
帰ったらお母さんなんていうかな。もしかしたら拳骨されるかも……


「ね、ジン」

「ん?」

「お母さんおこってるかな」

「そりゃぁな」

「……わたし、家帰りたくないな」

「お前なぁ…」


呆れた顔をするジンに、だって…と言い訳しようとしたが
ジンが立ち止まって私を見たのでなんとなく口を閉じた。しばらく無言が続く。
しかし、先にジンが疲れた顔でため息をついた事でそれは破られた。
あーあ、また幸せが。駄目なのに。私に、ジンを幸せにすることはできないんだから。


「そんなにため息ばっか吐いてちゃ駄目だよ」


ジンの将来を思いやってそう言ってやると、


「誰がそうさせてると思ってんだよてめーは…」


と言われた。
意味がよくわからなかったので首をかしげると、
「あんま心配かけんなっつーこと!」とジンは言った。
…ああ、心配してくれたんだ。なんだか嬉しくて笑うと、ジンはむっとした。


「あのな、俺だって怒ってるんだぜ」

「えっ」

「勝手に外行くなよ、方向音痴」

「な、違っ…!そもそもジンがわたしをおいて行こうとするから!」

「もう聞き飽きたぞそれ」


けらけら笑うジンに今度は私がむっとすると、ジンは乱暴に頭を撫でてきた。
髪の毛がぼさぼさになるだろと文句を言おうとしたが元々そんなだったので言わないでおく。
ジンは私の乱れた髪を見てまた笑ったあと、そうだなー…言いながらと空を見上げた。


「よし、明日はミトも外に連れてってやるよ」

「……それこそ聞き飽きたんだけど…」

「あっお前俺を疑ったな!連れてかねーぞ?」

「いや…だって……ねぇ?」

「じゃあ行かねーんだな」

「……ホントにつれてってくれるの…?」

「おう」


ジンは私の足に視線を移した。そして、右足を指差す。
その先には、丁度一週間前くらいに転んでできた怪我のあとがあった。


「それ」

「…?」

「右足、捻挫してただろ」

「そうなの?」

「ああ。それもそろそろ治る頃だし、連れてってやるよ」



遅かったら置いてくけど、と続けた声は耳に入らなかった。
ただ、ジンはやっぱりやさしいやつだと思った。私の怪我、気遣ってくれたんだ。
明日、早く来ないかな。明日はたくさん外で遊んでもらおう。
そうとなったら早く家に帰って寝なきゃ、眠くなったらまたおいてかれちゃう。
私はジンの手を引いて、走り出した。

そうして家に帰りお母さんにこっぴどく叱られるまで、あと十五分。


130209
終戦の土曜日.夜
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