【決戦の曜日・午後】


家を飛び出し、森に足を踏み入れた。久しぶりだ。
毎日のように来ていたというのにここ最近パッタリきてなかったから尚更。
森を歩いていて思うのは、やっぱり私はここが好きだということ。
青々とした木々が、やさしい鳥の鳴き声が、キラキラ光る木漏れ日が好きだ。
いつだって、時間が許すのならずっとずーっと此処に居たいと思うのだ。
大きく息を吸い込むと、やさしいにおいがした。


ジンは、中々見つからなかった。
そりゃそうだ。小さな島といえども広い。しかも私はまだ子供。
それによく考えたら私、いつもジンを追いかけてはいたけれど
それはジンの背中であって、姿の見えないジンではなかった。
此処に来るのは久しぶり、でも此処に一人できたのは初めてかもしれない。
そんな私がこの広い森で迷子にならない筈もなく。


「ここ、さっきも来たよね…」


情けない事に僅か数十分で私は迷った。
ぐるぐると同じところを回っているようで、さっきから印のついた木から離れられないのだ。
冷や汗が垂れる。まだ日が出ているから良いが、暗くなってしまったら……
少なくとも日がくれる前にジンを見つけなきゃ。

そう決心したからと言って、そうできるとは限らない。私はそれからもジンを見つけられなかった。
日はどんどん落ちていく。どんどん薄暗くなって、辺りが見えなくなってくる。
見えても結局道は分からないんだけど。ああ、パン屑でも落とせば良かったのかな。
いや、それは鳥に食われるのか。

そんなアホな事を考えている間にも、すっかり日は落ちてしまった。
気がつけば私は湖のそばに立っていて、湖に星がきらきらと輝いて映っている。
私は近くにあった木に空いている穴に入って座り込み、それをぼんやりと眺めた。
きらきら、ジンの目もきらきらだったな。ジンは今、一体何処にいるんだろう?


「……ジン」


ジンなんて嫌いだ。
どうせいつか私の前からいなくなっちゃう癖に、居る間も私をおいていこうとする。
本当に酷い奴。子供のくせに偉そうだし。きらい。だいきらい。もう、いっそ早くいなくなっちゃえばいいのに。
そうしたらわたしだって変な期待、しなくて済むのだ。

ぎゅっとスカートの裾を握る。
よくわからない感情が渦巻いて泣き出しそうになる。
なんていうんだろうこれ、きっと恋とは違うなにか。前世の私は知ってたかな。
忘れちゃったよもう。だってもう此処が私の世界でこれが私の身体だから。
多少の前世の記憶があっても肝心なときなんの役にもたたないね。だめだな。
おばあちゃんならこの気持ちの名前もわかるのだろうか。相談したいな。話を、聞いてもらいたい。
そこまで考えてはっとした。私は何をしているんだ。こんなとこにいたらみんな心配するだろう。
いつまでもジンを探してちゃ駄目だ。ジンはきっと、もう家に帰ってるんだ。私も早く帰らなきゃ。

でも、どうやって?

ざわざわと揺れる木が、今までなんとも思わなかったのに急に怖くなった。
ごうごうと吹く風も、遠くから聞こえる獣の声も、全てが恐ろしくて、私は身震いする。
あーあ、ジンがついてくるなって言ったのだから、大人しく言うことを聞いていれば良かったんだ。馬鹿だなぁわたし。
私はさっきよりももっときつく、スカートの裾をつかんだ。
さみしい。一人じゃこわい。私は目を閉じた。


「ミト、」


そんなとき私を呼ぶ声がして顔を上げたら、


いつだって、ジンがいた。


「見ーつけた」

「ジン、」

「ほら、帰るぞ」


嗚呼、そうなのだ。
優しい声でそう言って、手を差し出されてしまったのなら
結局わたしは、その手をとるしかなくて、つまりは私は一生ジンに敵わなくて、一生ジンを忘れられないのだ。
星を映して、いつもよりきらきらしたジンの目が私を映す。私の目はどうだろうか。
きっと、やっぱりジンのきらきらにはどうやっても敵わないんだろうな。

ねぇ、ほんとはね、居なくならないでほしいの。ずっと一緒にいてほしいの。
出ていかないでって、今すぐ言いたいの。そばにいないなんて哀しくて泣いてしまいそうだよ。
でもね、ジンがやさしいからわたしもそんな意地悪、言えないよ。

私は結局、ジンが大好きだったんだ。


(君はやさしくて、残酷だね)


130207
決戦の土曜日.午後
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