せぶん!
邪魔者扱いされたショックでめそめそしながらも、私の精神は思っていたより屈強だったようで案外あっさりぐっすり寝られた。
寝たことにより全てを忘れた私は一晩の安眠からか清々しい気持ちで起床し、広間に行く。
其処に居たのは………
「i子…昨日はよくも煩くしてくれた」ごごご…
「こっコルトピさんちーっす」
メデューサのように髪をうねらせ(幻覚)、殺気のこもったオーラを飛ばしてくるコルトピさんである。
髪の間から覗く眼が光った。怖すぎて思わず身震いした。そこでようやく、昨日の床ドンを思い出したのだ。
「わっ…私は悪くないんだよ!全部私以外の女子共に原因があってだね」
「ぼくはi子の声で眠れなかった」
「私だって好きで叫んだわけじゃないの!だってあれだよ?団長がフラフープしてたとかいうんだよ?信じられる?」
「フラフープ…?」
コルトピが困惑したように首をかしげた。
おおお、これは私の味方が現れたか久しぶりに!?
そう瞬時に理解した(かっこいい)私は思わずコルトピに掴みかかった。
「変だよね!?信じられないよね!?」
「まぁ…というか今その話じゃない」
「もう寝られたか寝られないかなんて言ってる場合じゃないだろ!あの!団長が!だよ!?」
「話をそらさないで」
「細かい奴だな」
私がコルトピの肩をがっしり掴みながらそう叫ぶと、コルトピはふと私の方から顔を背け、呆れたように「i子は死ななきゃ解らないの?」と言った。
そして、私の背後を指さした。ん?と振り返ると、そこには落ち武者の姿が……
「i子…今まで我慢してきてやったが今日という今日は許さねぇ」
その落ち武者とは刀にしっかり手をやって、本気でオーラ出してるノブナガであった。
相変わらずの隈と、やつれた顔が恐怖を増幅させる。えっ…え?また怒ってんの?
「え、何?何なの?怖いんだけど」
「………」
「あの、団員同士のマジギレ禁止だけどそれわかってる?」
「うっせぇ!!!」
「えっ…ぎゃああああ!?」
とうとう追いかけてきたノブナガに、本当に殺されそうだと感じた私は全力で逃げ出した。
まっったく意味がわからないんだけど!私なにかした!?あ、コルトピと同じ理由か!?
いやでもこの人の部屋隣の隣くらいだよね、流石に私の声届かないだろ!女だし!じゃあ何怒ってんだコイツ!!
「意味わかんないほんとおっさん意味わかんない」
「うおおおおお」
「わぁぁぁぁあ!?刀振り回すなよ玩具じゃないんでしょそれぇぇ!!」
これは死ぬ…!死なないにしても大怪我する…!このままじゃ腕の1本でも吹き飛んで、マチさんに縫われてお金を請求されてしまうんだ…!!
かよわい女の子になんてことをするんだ!終いには泣くぞ!!そう叫ぼうとしたとき、突然後ろでどさりという音がした。
「……ん?」
立ち止まって、ゆっくり後ろを振り返る。
ノブナガが倒れていた。これこそ意味がわからない。一瞬の間に、一体何が……罠…寝た振り?
そうとわかっていて近づくもんか。と見せかけて私はノブナガに駆け寄る。本当に寝ていた。
「………まったく、人騒がせな!」
「i子でしょ、人騒がせは」
コルトピがジト目で私を見つめてくる。都合の悪いことを言っているようなので無視してやろうと思った。それでもずっとジト目で見てくるので、私も負けてられんと睨み返す。
無言の睨み合い、長い沈黙。そのうちだんだん目が乾いてきた。
コルトピがまばたきひとつしないのが怖い。雰囲気的に私もまばたきできないじゃん…
しばらくして、とうとう目が乾きすぎて
足までぷるぷるしてきた時、ようやくまばたきのチャンスが訪れた。
「さっきは朝から賑やかだったみたいね、おはよう2人とも」
「シャル!!」
爽やかすぎる笑顔を貼り付け現れたシャルにぱちり。まばたきひとつ。
すると横からコルトピが「僕の勝ち」と小さな声で言ってきた。じ、地味にくやしい…
わたしがくそ、と嘆いていると、シャルが何かに気づいたように声をあげた。
「あれ、ノブナガあんなとこで寝てる。なんで?」
「あれねー迷惑でしょ。公共の場でね!」
「迷惑はi子。ノブナガはi子がうるさいから皆眠れなくて、その殺意を代弁してくれた」
「なるほど」
「なんで納得しちゃったのシャル」
「i子が煩い件については、今のところ旅団内でヒソカの存在の次に問題だからね」
「え…そんなに…?」
知らなかった…あのヒソカの次?
え、私のうるささってそんなに公害なの?いやでも私だけに問題押し付けるのおかしくない?
だって、うるさくさせてるの女子達だし。みんなまとめておこれよ!
「え、だって仕方ないよシャル、悪いの私だけじゃないし」
「さっきからこの調子で全く反省してない」
「そのようだね…一度団長に叱ってもらった方がいいか…」
「やめてよチクる気!?なんて奴らだ!!え、だってあれだよ?フラフープだよ?団長が!騒ぐのもしょうがないよ」
「またそれ…しつこい」
ウンザリした様子のコルトピに気になるじゃん!というと適当に頷かれた。
続けて、期待を込めてシャルの方を見れば、シャルはきょとんとしていた。
「え、というか何?団長がフラフープって…i子そんなことで騒いでたの?」
「え?!そんなことってシャルくん、フラフープだよ!?」
「団長がフラフープしてるなんて珍しいことじゃないだろ」
「「…………!?」」
シャルの言葉に私も、コルトピでさえも唖然とした。え、珍しいことじゃないの?え?じゃあ一体この世の珍しいことって何?え?
「あ、写真みる?」
「あるの!?!?」
「うん。あるよ。一枚800ジェニーね」
「え、販売してるの?しかも地味に高ぇ!」
私がただただ困惑していると、横にいたコルトピが
すっと両手をパーにして前に出した。
「10枚買った」
「まいど!」
「えええマジすかコルトピさん!えっ、じゃあ私も…えっと、どれくらいレパートリーあるのそれ」
「うーん…五十くらいかな」
「団長そんなに変なことしてんの!?てかお前その写真団長の許可は…」
「勿論とってないけど?」
「盗撮かよ」
「盗賊だからね」
いや、こいつ何うまい事言ったみたいな顔してんだ腹立つ。盗賊の鏡なんて言ってあげないからね?言うわけないからね?
「で、買わないの?」
コルトピに写真を渡しながら残念そうにそういうシャル。
コルトピは写真を見た途端驚いたようにぱっと目を見開いた。ぐぬぬ…気になる…!
「わ、私も5枚買うわ…」
これで、真実がわかるのなら………!
そう思い財布を出すと、シャルはにっこり笑って「まいど」と言った。
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