ふぃふてぃーん!

出せる限りのスピードで駆けつけたが、やっぱり遅刻はしたし、急いだと訴えたところで遅刻は遅刻なのである。



「仕事もしてないのに…一体何をして遅刻できるんだ?」

「いや…」

「趣味か?また妙なバンドにでもハマってるのか。理解し難いな」

「いや……」



そして、案の定遅刻について言及してくる団長。とてもメンドクサイ。というかなんで急にバンドの話?そういえばこの前マチとコルトピも私がバンドにハマってた頃の話持ち出してきたな…そんなに私はバンギャキャラなのか?ヘドバンするぞ?お?
もうブームはとっくに終わっているというのに、一度ついた印象って強いんだなぁとうるさい団長の小言を聞き流しつつしみじみ。思い返せば二年前、あのバンドは解散してしまった。
というかメンバーの1人が消されたらしい。召されたのか遠くにとばされたのかは定かではないが……元々社会批判の過激派みたいな人達で結成されていたので、どこぞの政治家が暗殺を要請したと風の噂で聞いた。
この世界は本当に野蛮で恐ろしいところである。暗殺一家が普通に豪邸構えてそこが観光地になってるような世界だもの、しょうがないのかもしれない。しかし私には悲しい思い出だ。政治家は私がとっちめておいた。
思い出してひとりしんみりしていると、団長はそんな私に淡々と言った。



「そういえばお前、以前夜中に熱唱していたが……歌が下手だよな。たけしか?」

「ぐ!?、!」



な、なんと……!!壮大な伏線だったのか〜!!!急にバンドの話指摘やがったと思ったら私に毒を吐くための準備だった〜〜!!めっっちゃ傷ついたんですけど!!!!つーかここで国民的アニメのキャラクター出してくるとかほんと怖いわこの人自分のキャラをわかってなさすぎでしょ怖いわ〜!!



「じゃあ団長は歌上手いんすかオラァ!!」

「俺はお前ほど下手じゃない。だが、カラオケの練習か……いいかもな。i子の音痴もこれを機に治してやれるかもしれない」

「えっいいよそんな話をしてるんじゃないよ、というか、そんな音痴じゃないし私!」

「今日はカラオケに行くぞ。ここから一番近くのカラオケボックスは………」

「いいってば!!」



というか、待て。特訓の前に、私は団長にお願いしたいことがあったんだった。



「…だんちょー、話変わるけど……この謎の特訓昼間にしない?」

「何故だ」



ケータイで最寄りのカラオケボックスを調べている団長にそれとなく持ち出せば、団長はこちらに顔を向けずまた淡々と返してきた。何だか頑固なお父さんにお許しをもらう気分だ。この前ドラマでそんなん見た。



「怪しまれるんです、夜部屋出ていくと。最近みんなが私の部屋でガールズトークやってて」

「ガールズトーク?」

「うん。ガールズトーク。…えっと、夜みんなで集まって、恋バナとかする………もしかして知らない?ガールズトーク」

「いや、話には聞いたことがある」



頑固なお父さんはガールズトークに興味を示したらしい。ケータイから目を離してこっちを見た団長の顔には興味津々ですとバッチリ書いてあり、団長は顎に手を当ててガールズトークについてまじめに考え出した。この人ほんと何なんだよと数分おきに改めて思う。団長は常に進化しているのだ。
しばらくして団長は、いいことを思いついたらしい。機体に満ちた眼差しでこちらを見てきて、私は団長とバッチリ目が合った。────あ、なんか私、この後なんて言われるか読めたかも。目と目で通じあっちゃったかも。エスパーかも私。



「i子、ちょっとやってみてくれ。ガールズトーク」

「ほらね!ほらね!えっ1人で!?無理です」



一人でガールズトークって何!?無理に決まってるよ!?団長と一緒にやるにしてもあんたガールじゃないからもうなんにも成り立ってないからね!!もうガールズトークじゃないからね!!
そうやって私が真面目にツッコミまくってやっているというのに、団長といえば、その間も全く聞かず何やらひとりで考え事をしているみたいだった。私完全放置だからね!すごいよこの人!!



「しかし意外だな、あいつらもガールズトークなんてするのか」



いや、私としてはあなたが一番意外ですけどね。みんなが早寝だろうがガールズトーク好きだろうが、あほな修行をするあんた以上に意外なことはなんにもないよ!!
ああ、頭が痛い。完全にツッコミ疲れだ。ボケたい。ボケていたい。ぐったりしながらも、タフな私はなんとか団長に返事をした。



「皆、大好きな人がいるんですよ」

「そうか、それは────羨ましいな」

「…────」



顔を上げて、団長を見る。団長はいつもと変わらない表情だった。…羨ましいだなんて。それじゃあ団長には、そういう人はいないってこと?



「…団長は、みんなのこと好き?」

「i子はどうなんだ?」



私の質問には答えずすかさずそう返事をした団長に私は思わずでましたー!と拍手したくなった。でましたよ団長の質問に質問返し!!頭いい人は大体やるこの常套手段です!!!
ちょっとムカつくのでこれに更に質問をのせてやろうかと一瞬考えたが、素直でかわいい私には全然思いつかず、無理に団長の神経を逆撫ですることもないか、と観念して普通に答えた。



「えー私はどちらかと言われれば正直最近嫌い寄りですねー、みんなわがままで煩いし。特に黒くて小さいやつが私的に永遠に分かり合えない」

「フェイタンに言っておくよ」

「やめて!!!」



本気で叫ぶと、団長は笑った。ちょ、笑ってないでわかったって頷いてくれよ。本気で言って欲しくないんだからね私は?分かり合えない云々はきっと同意してもらえるからいいとしても、その前の言葉を聞かれたらたぶん私はフェイタンよりも細かくされてしまう。豆より小さくされてしまったら骨を集めるのが大変だ。
────まぁでも、そんな感じで全然仲良くないフェイタンとかだって、一応仲間ではある。



「……嫌い寄りだけど、でも……そうだな、仕事が毎回、何の損もなく全部上手く行けばいいなって、それはいつも思うよ」

「意味深だな」

「そう?」



i子は素直じゃないよな。
団長の言葉に、私は変な顔をするしかなかった。変顔ではない。顔を歪めただけだ。私だってここで変顔をするほどボケに徹して生きている訳では無いのだ。
団長だって、素直じゃないじゃん……ううん、わかってないというべきか。わかってないというか、愛情表現とかが出来ないというか?とにかく私は────団長だってきっと、みんなが好きなんだと思うのだ。
そして、当たり前だけどみんなは団長が大好き。つまり相思相愛。ん?ということは、旅団盗賊のくせに超ハートフルじゃん。なんだよ、めちゃくちゃ愛に溢れてんじゃんね。
しかも団長ハーレムだしね。あなたは知らないかもしれないけれど、あなたってとっても、贅沢な人なんですよ。ひたすら頑張り屋さんの団長は、これからも気づかないかもしれないけれども。

170110

 
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