さーてぃーん!

突然だが、私は仕事のない日の昼間、基本的にいつも一人で外に出かけている。
私は陰気なみんなと違って根っからのアウトドア派なのだ。お家でゲームばかりの現代っ子とはわけが違うのだ。そんな超活発な私なので、勿論ただ街に遊びに出るわけではない。
じゃあどこに行くかって、そんなの、いつもはっきり決まってない。決めてしまうとつまらないから、棒でも倒して、その方向にジョギングがてら走って、行ける限り遠くへまっすぐ進むのだ。
一直線に走って、帰るときは真逆の方に走るだけなので頭を使わないで済む。それは私にぴったりの最高に楽しい趣味だった。
しかし───最近はそれが出来ていない。何故ってそれは、ただ単に寝不足なのだ。彼に、団長に毎晩振り回されて!!
あの3人のガールズトークの時はまだよかったんだって今なら思うよ!気にせずひとり寝ちゃえばよかったんだから!基本私放置だから!
だけど団長は違う。自分ひとりでやってればいいものを、私にまで強要してくるのだ。最近はお笑いだけでは飽き足らず、手品や俳句、リフティングやテレビゲームをやらされていた。
ここ一週間ずっとそんな感じで新しいことに挑戦させられ、私は疲れていた。ジョギングどころでは無い。



「i子〜、最近偉いじゃねえか」



団長の部屋を出て、すっかり昇りきった太陽を見つめてからよし寝るか〜と部屋に戻ろうとしたら、起きてきたノブナガが珍しく明るい声でそう声をかけてきた。
えらいこと御機嫌で気味の悪さを感じながらも、とりあえず愛想よく何が〜?と聞けば頭をぽんぽん叩いて何も言わずに去っていく。おい、返事しろよ。しかもぽんぽんとは言ったけど実際のところぽんぽんどころじゃなくボールをつくような勢いだったよ。ざけんな。
でもまぁ、なんぼ私が阿呆でも、どうしてノブナガの機嫌がいいかは聞かずともわかっていた。どうせ私が最近部屋を留守にしていて、静かでいいというのだろう。煩くしてないのにあくまでも私が原因だと奴は言い張りたいのだ。腹が立つ。
何だ、みんなして。その後続いてやってきたフランクリンも「早く寝るのはいい事だ」と褒めてきたし、コルトピは聞くところによれば、今だとばかりに未だにぐっすり寝ているらしい。
 叩き起こしに行くことにした。
私がいつでもお前らの思い通りにしてやると思ったら大間違いだ。

そうと決まってからの私は速かった。足に念を込め跳躍し、100mを10秒かかってないくらいのスピードでビュンと跳ぶ。コルトピの部屋まではあっという間だった。
勢い余って突進し、ドアをぶち壊す。バキーンと木製の扉が木っ端微塵になるのが、スローモーションで見えた。
何の障害物もなくなったおかげで、私は床にぶつかって部屋をゴロゴロと転がる。そのまま壁に叩きつけられる前にシュバっと立ち上がり、土煙の中いつでも闘える体勢を整えながら、コルトピの姿を探した。

土煙が晴れる。────いた。私の目の前で、怒りに可愛い目を吊り上げ、長い髪をゆらゆらさせながらまさしくブチ切れているコルトピが、やはり私と同じようにファイティングポーズをとっていた。起き抜けに流石だ。



「ふふ…良い反応だ」



私が賞賛の言葉を述べれば、コルトピのオーラが1段と多く、どっと溢れ出す。彼の怒りをビリビリと肌で感じ、口角が自然と上がった。
ああ、滾る。ぐっと拳に力を入れ、構え直した。熱い戦いが今、始まる──────
と思ったが、次の台詞の「お前ならついてこれるとおもっていた」を、最後まで言い終わる前に、コルトピがガチのスピードで動き出した。
そうしてあっという間に私の前まで詰め寄ると、コルトピの回し蹴りが炸裂!!!!

ばっしーん!!



「でええええ!?!?!?」



大きな音とともに私はバタンと横に倒れる。えっ痛い。ガチで蹴りやがったよこの子!!



「ちょっ…団員同士のマジギレ禁止だよ!?」



私がコインをポケットから出して、コルトピに差し出せばコルトピはぱーんと私の手を払った。コインが床に転がり金属音を立てる。



「どう考えてもi子が悪い!」



コインを目で追う私に向かって珍しく語気強めに主張したコルトピに、少し怯む。えっご、ごめん…そんなに怒るなんて思わなかった……
ガチで怒られ、流石に戦意喪失した私に対し、コルトピは一回蹴っただけでは物足りないらしい。まだ戦闘態勢を解かない彼に『争いは止められない、か…』と再び構えた時だ。
ドアの無くなった入口の前に、ダン!とわざとらしい大きな足音を立てて誰かが現れた。二人してそちらを向く。マチだ。何故かわからないが、どうやら彼女も異様に殺気立っている様子だった。



「あっマチ」

「煩いよi子!!」

「え!?」



怒鳴られて初めは訳が分からなかったが、数秒でああ、と合点がいった。彼女もこれから眠るつもりだったんだろう。
遅くまでガールズトークをしているマチ達はすっかり夜型になり、朝に寝ないと耐えられない身体になってしまっていたのだ。毎日仕事に行けるね、やったじゃん!
私が1人、小さく拍手をした間に、マチは拳を握りしめ、こちらに近づいてくる。彼女がゴキリとその手を鳴らしたところで、あれ、これ私殴られるんじゃない?とようやく気づいた。



「なんで!?え、煩くしたから!?いやでももう朝だから!!普通は起きるの!!ニワトリも鳴く時間!!」



必死に弁解するも、結局拳骨からは免れられなかった。痛がってるうちに続けてコルトピにもぽかっと殴られる。遠くで鶏が鳴いていた。
まったく、最悪の朝である。

160927

 
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