しょくじのあんねい 「ジャミル様、そこはそうではなく、こっちの単語を…」
「っわかってる!でしゃばるなよ!」
「あ、そうですそれです。混同しないように気を付けてくださいね」
あれからシュウと一緒に真面目に勉強をするようになった。別にこいつを認めたわけじゃない。当然だ。シュウがいくら頑張っても“先生”には絶対敵わないに決まってるのだから。 ぼくは、ぼくを王にする為に色んな教育を施してくれたあの人しか先生として認めない。本当に誰より尊敬している。誰より好きだ。誰より信じている。
それなのに何故シュウと素直に勉強してやっているかというと、ぼくがいくら文句を言っても状況が変化しないことに気づいたからだ。 それに、こいつは一応料理もできるし、どういうわけか“先生”と同じくらい物知りでぼくのまだ知らない沢山の事を教えてくれるので、これは糧にしないわけにはいかなかった。 ぼくは王さまになるんだ。そのために、今はシュウのいう事を聞いてやるのが得策だと思う。────王さまになったらおぼえておけ。
そうして1人にやけそうになるのを必死でこらえていると、ぼくが解いた問題を確認し終えたシュウが、こちらをみてにっこり笑った。
「全問正解です。すごいですね、ジャミル様」
ふわり。 やさしく笑ってぼくの頭に手を乗せたシュウに、何故だかまた、心にじんわりとあたたかさが侵食してくる感じがして目を見開く。 シュウがこうしてふわりと、今まで会った誰よりも優しげに笑うときに胸に広がっていく心地よいあたたかさの名前をぼくは知らない。 もどかしいような、照れくさいような。それでもその感覚はきらいじゃなくて。“先生”だってこうして頭を撫でて褒めてくれたのに。先生とシュウは何が違うんだろうか。
「…このぼくだぞ、全問正解で当然じゃないか」
「はい、これからも頑張ってくださいね」
ぽんぽん、と頭を撫でてくる手は本当は煩わしいのに振り払えず。何かが満たされる、ただ、そんな感覚にひたっていた。 ぼくに足りない何かを足すようなこの感覚は、どうしたらもっともらえるんだろうか。どんな時にシュウはこうして笑うんだろうか。やっぱりぼくにはわからない。
「そろそろ食事にしましょうか」
「…うん」
「先に行っていますね」
「えっ!?」
ぼくが反応した時には既にシュウは忽然と姿を消していた。おそらくぼくの分の昼食を食べるために速く部屋を出たんだ。 最近気づいたのだけど、どうもシュウは食べることが大好きなようだった。本当に、何よりも。
やばい、ぼくのごはんが食い尽くされる。
「…っ待てよ!!」
ぼくも慌てて飛び出して、奴をおいかけた。 長い廊下で、小さな戦争が幕をあけた。
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