ふしぎなあたたかさ 厨房につくと、シュウは本当に手際よく朝食を作り、あっという間にテーブルに並べた。まぁ普通に美味しそうに見える料理と、シュウを見比べると、その顔は珍しく苦笑い。
「料理長の足元にも及びませんが、もうすぐ昼食ですので今はこれで勘弁してください」
「………」
ぼくが無言でこくりと頷くと、ホッとした顔で胸をなでおろし、またいつものように当然といった様子でぼくの前に座って食事を食べだす。 今までのこの行動にも、先程のことでようやく合点がいった。こいつは、自分の食事を全部奴隷にやっていたのだ。だからこうしてぼくと一緒に、ぼくの分の食事を食べていたわけだ。…変なやつ。そしてすごく迷惑だ。代わりにぼくの分をとるなんて。 どうすればこの事態を改善できるか考えながら、ぼくは朝食を口にした。
「え………おいし、い?」
「あ、本当ですか?」
「うそだ」
「ありがとうございます」
「うそだってば…」
ぼくがいくら訂正してもやつはにこにこ笑った。きりがないので、しばらくしてぼくがあきらめた。 今日は何でかこいつを許してしまう。きっと、さっきの恐怖がぬけてないのかもしれない。 ああ、正直に言おう。怖かった。とても怖かった。殺されるかと思った。それに、さっきの出来事をぬきにしても、シュウという男はあまりにも得体がしれない。勉強も教えられて、剣術も出来て、料理もできる。 一体何者なんだろう。どうしてここにきたんだ?
「…何で」
「?」
「何でここにきたんだ?お前」
「うーん…そうですね…」
話していませんでしたね。 そう言ってやつはパンを手に取った。それから、ぼくをじっと見つめる。その目はなんだか海のようで、それを眺めながらぼくは静かに言葉を待った。シュウは珍しくまじめな顔をして、言った。
「ジャミル様は、このパン1つで1日を過ごせますか?」
「…は?」
突然の質問に面食らう。ほんとに突然なんなんだ。話がとびすぎじゃないか。そう抗議の声をあげようとすると、その前にシュウは言葉を続けた。
「そうですね。数日ならきっと耐えられると思いますが、僕はできるできないよりやりたくないです、そんなこと。何故ならおなかがすくからです」
そう言いながらシュウは、またぼくの分の食事に手を伸ばした。
「あっ、またぼくの分を…」
怖いのでその手を叩くこともできず自分から泣き声に近い声が出た。それでもシュウは構わずそれを口に運んだ。おいしかったのに… 項垂れるぼくを無視して奴は話を続ける。
「お腹がすくとくるしい。食事は至福です。パンだけでなく果物もおいしいのでいくらでも食べたいですよね。このご時世です、いくらあったっていい。いくらあったって足りない」
「だからって、ぼくの……」
「僕が何故此処に来たのか。それは、より多くの人々に、少しでも多く美味しい食事が与えられるようにするためです」
「ぼくの分とったくせに……!?」
とんだ矛盾だ。何なのだこいつは。ぼくだって、ぼくだってたくさん食べたいのに… そんなぼくにシュウは、吃驚するほど優しくわらって頭をぽんと撫でた。
「おかわりならありますよ。そんなに気に入ってくださいましたか」
「……いや」
「そうですか…では僕が全て、」
「っでもぼくもたべるから!!不味くはなかったしね!!」
「はい」
「料理長でもないのにすごいぞ、ちょっとだけ褒めてあげてもいい」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑ったシュウを見て、不思議な感じがした。────あれ。ぼくは、こんな表情をした人間を初めて見た……?
なんでだろう。少しだけ、心臓のあたりがあったかい気がした。
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