こわいひと 部屋を出て、シュウが居そうなところをくまなく探した。といってもぼくは無礼なシュウのような奴の事なんて全然知らないので、手間取るかと思ったが、意外にもそんなことは無かった。ぼくはすぐに、ぼくの奴隷のいる地下牢への扉が開いている事に気づいたのだ。
「あいつ…ぼくには来させてくれないくせに、自分だけ奴隷で遊んでるんだ…!」
怒りがわいてくる。思わず手にしている剣を強く握りしめた。これはあいつも、大怪我じゃすまないかもしれない。じごうじとくだ。ぼくを怒らせたのがわるいのだから。 中に居るだろうあいつに気づかれぬように静かに部屋に入る。そこには、こちらに背を向け、奴隷の牢の前で跪いているシュウがいた。
────チャンスだ。
自然に上がる口角。 ぼくは背後からゆっくり忍び寄り、シュウの肩めがけて、勢いよく剣を振りおろした────
────筈だった。それなのに、次の瞬間、ぼくの手にあった短剣はぼくの手になくて。
「あ…れ、?」
遠くで金属のぶつかるけたたましい音がした。 恐る恐る音の方をみると、ぼくの短剣が床の上に落ちている。頭が真っ白になった。何が起こったのか全く分からず、底知れぬ恐怖に襲われて後ずさるぼくの方に、シュウがゆっくり振り返った。
「あれ…ジャミル様?」
「っひ、」
シュウの手には、いつの間にか立派な剣があった。よく見ると、それはいつもシュウの腰についているものだ。 これでぼくの剣をはじいたのか、いつ?一体どのタイミングで?そう考える暇を与えず、シュウはぼくに問いかける。
「具合が悪かったのでは?」
「ごっ、ごめんなさ、」
「ああ、謝らないでください。もう大丈夫なんですね」
そういってゆらりと立ち上がったシュウに、殺されると思い、ぎゅっと目を瞑る。 しかし、いつまでたっても痛みはふってこなくて、ぼくは恐る恐る目を開けてみた。 あいつは、笑っていた。
「朝食、まだでしょう?おひとついかがですか?」
「…へ、」
どこから出したのか、シュウの手にはパンがあった。よく見ると、奴隷たちもそれと同じものをもって不安そうにこちらを見ている。 こいつがやったんだな、というのは、馬鹿でもわかることだった。そんな、奴隷と同じ食事なんて、いらないに決まっている。
「……そんなのいらない」
「あ、そうですか」
「……おこってない、のか?」
「はい?」
ぼくの言葉がまるで理解できないとでもいうように、不思議そうな顔で首を傾げるシュウにぼくは驚く。 ぼく、一応こいつのこと殺そうとしてたのに。それくらい、誰だってわかるだろう。
「あ、わかった。ジャミル様、ほんとは仮病だったんでしょ」
「ちがう!!………ちがうぞ、ほんとに…具合が悪かったんだ」
「そうですか。もう平気ですか?」
「………」
「ではそろそろ行きましょうか。今日はジャミル様の食べたいものを準備します」
シュウはそう言って、ごく自然にぼくの手をとって、ぼくは何故かそれを振り払う事もできず、不思議な気持ちで久々に訪れた奴隷の牢をあとにした。
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