まちがいどっち
ある日、奴隷の牢へつづく廊下のドアがまたしても開いている事に気づき、のぞいてみると、やはりシュウがいた。
奴は相変わらず奴隷に人間のごはんをあげていたようで、奴隷のやつらから不審なものを見るような、それでいてありがたそうな顔を向けられている。シュウの表情は、こちらに背を向いているせいで見えない。だから、奴がどんな気持ちで奴隷にごはんをあげているのか、いまいちわからなかった。
シュウは、どうやらぼくに気づいていないようでこっちを見ない。代わりにごはんを食べていたモルジアナが気づいて、「あっ」と小さく声をあげた。それにようやくシュウも振り向く。


「あれ、ジャミル様」

「…また、奴隷にえさをやっているのか?」

「はあ、えさといいますか、僕の朝食なんですけどね」

「なんでだ?モルジアナにはぼくがトウモロコシを…」

「トウモロコシ…?」


シュウは首をかしげ、モルジアナとぼくを交互にみた。そしてモルジアナが震える手でごはんを置いたとき、小さくふぅと息をついた。
今日は一段と態度が悪い。


「ジャミル様、彼女はあなたより小さいんですよ」

「だから何だっていうんだよ、」

「何だって、成長途中ということです。あなたと同じ成長期です」

「っだから…」

「たくさん食べるに越したことはないんですよ。トウモロコシじゃ足りません」

「でも、そいつは奴隷だから、」

「その前に彼女は人間で、女の子でしょ」

「ちがうぞ、人以下だ!」

「あっ…あの、わたし、」

「大丈夫だよ、モルジアナ」


シュウはぼくとの会話をやめ、不安そうにしているモルジアナに笑いかけてぽふっと頭をなでた。一瞬心にもやっとしたものが生まれる。


「たくさん食べて、大きくなってね」

「はっ…はい…」

「また来るよ。……さ、行きましょうジャミル様」

「………」


何だか気分がすぐれない。
奴隷を甘やかすなんて、やっぱりシュウは駄目なやつだ。奴隷にエサ以外のものをあたえるなんて。信じられない。どうしてぼくはまちがってないのに、ぼくには笑ってくれないんだろう。


130629

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