>> たのしいしゅぎょう!
本日晴天。清々しい陽気に、私は大きく深呼吸した。息をいっぱいに吸い込めば、私の体はやる気に漲る。今日は仕事も団長のアホ修行もない、完全オフ、オールフリーだ。というわけで、たのしいジョギングのお時間です────と、思っていたら。


「今日はナマエの修行に付き合ってやる」

「は?何て?」


団長がドヤ顔で言い放った言葉に、私は耳を疑った。何…?人がせっかくワクワクしながら棒を倒してさて出掛けるぞー!といってるこの最高の瞬間に、この団長は、なんと言ったか……?


「ジョギングに行くんだろう?」

「まぁ…」

「いつも付き合ってもらっているからな。今日は俺がナマエに付き合おう」

「いや、でもジョギングは修行じゃなくて、趣味なんすよ」

「なるほど。感心だな」

「あっども」


なんか褒められたので一応ぺこ、とお辞儀しておいた。なんかよくわからんがちょっとうれしい。ふふふ。
ひとりホクホクしながら、だんだん団長ついてきてもいっか〜と思い始める。べつに、ジョギングするだけだし。団長はお喋りでもないから、邪魔になることはないだろう。寧ろ黙々と二人で走るのはお互いを高めあえていいのでは……?しかもしかも相手は団長、ジョギングは趣味だが、これはとてもいいステップアップの機会になるかもしれない。そう思ったら、歓迎するべきことな気さえしてきた。今思うと、この自分の素直さが憎い……素直で可愛い自分が憎い……っ!!

そんなわけで、はじめは良い気分でジョギング開始。私の予想通り、団長と黙々と走り続けるのは決して悪い時間じゃなかった。お互いにストイックに走り続ける────寧ろ素晴らしい時間だったといえる。問題は、ある程度進んだのでそろそろ引き返そうと思った昼に起きた。


「だから、そろそろ帰らないと夕方までに帰れないじゃん!」

「なぜ夕方までに帰りたいんだ?」

「いや……うーん確かに……いやいやいやいや帰る帰る帰る!」


私が譲らぬ姿勢で言い放つと、団長は不思議そうに首を傾げる。いやいや、わかってくれよ。いつも私はこの時間には引き返して、夕方までに帰れるようにしてるんだよ。
それなのに、なんと団長は、このまま走り続けたいというのだ。


「いつもと同じじゃつまらないだろ。せっかくだ、今日は新しいことに挑戦しよう。2日でどこまで行けるかだ」

「やめようよ〜夜遅くなるだけでもきっと心配するだろうに帰ってこないとなったら絶対みんな心配するよ〜」

「今日は保護者がいるから大丈夫だ」

「保護者ってまさか団長のことを言ってる?」

「他に誰がいるんだ?」


団長の根本的な間違いに私は頭を抱える。どう説明すればいいんだこれ……!


「いや……誰も私を保護したいとはおもってないんですよ。そして私は保護者としては頼りなさすぎるとか絶対言われるので────ああもう噂をすればだよ」


ベンベベベベベンというイカした着信音にケータイの画面を見れば、“ケータイバカ”の文字。そう、シャルナークくんである。
奴からの連絡は大抵ウンザリする内容なので、せめてかかってきた時に腹が立たないようにと設定した着メロは素晴らしい効力を発揮してくれた。相手がシャルでもいくらか腹が立たない。因みにこれ、私の大好きなバンドの代表曲ね。
団長が「趣味の悪い着信音だな」と言っているのを頑張って聞き流しながら、私はピ、と通話ボタンを押した。出ないという選択肢もあるが、出なかったら絶対鬼のようにかかってくるしあとでうざいから出た方がいいのだ。
そうして、携帯電話を耳に当てた瞬間。めちゃくちゃでかいつんざくような声が私の耳をキーンと通り抜けた。


『団長!!!』

「うるさっナマエだよ!なんでナマエのケータイに掛けて団長が出ると思ってんだおめーは」

『あっそうだった。団長のことが気になってナマエの名前忘れかけてた……』

「おいコラ」


奴の腹立つ言い草に一言がつんと言ってやろうと凄んだところで、電話の向こうから「ちょ、なにすんだよ!」とかなんとかシャルが騒いでる声が聞こえる。さっそくなんだよ……と思いながら、おーい?と生存確認してやれば、次いで耳に入ってきたのは全く別の声。めちゃくちゃ怒ってるマチちゃんの声だった。えっシャルやられたの?待って待って、こわい!


『今どこにいるんだい』

「ど、どどどこでもいいじゃん……!ジョギングだよジョギング」

『やっぱりね……こっちは、あんたが団長といるのは知ってんだよ』

「えっ!?」

『修行』

「ぎくーっ!!」


な、なんで知ってるのー!!!まさか今までのことも全部ばれた……!?


『さっき、団長からメールでナマエの修行に付き合うってきた』

「あっなんだ……ん!?え、なに、えっ……!?団長が!?」

『それは良い。あんた詰めが甘いところあるから存分に鍛えてもらえと思ったけど……けど、二日も独占するなんて……!!うらやましい』


最後にぼそっと小声で聞こえた本音はスルーし、ばっと団長を見ると、真顔だった。
あまりのことに思わず呆然とする私から、団長はあっという間にケータイを奪いとる。そして、勝手に一言二言話して、ピッと切った。更に、ふう、とため息を吐くと、悪びれることなく言い放った。


「俺の修行じゃないからな。みんなにばらした」

「は!?ふざけんな団長コラそっちがその気なら今までの修行全部ばらすぞ!!!」

「……やるか?」

「上等だこの野郎今日という今日はゆるさーん!!」


怒りのあまり勢いよくとびかかった私を団長は簡単にいなすと、そのまま腕を掴んで背負投してきた。世界がひっくり返るのが、スローモーションで見える────圧倒的な戦闘能力差。それを実感し、私が無謀にも立ち向かっていったことを後悔した時には、さらに一発食らっていて、私は意識が遠のいていくのを感じた。
そして、どうやらそのままずるずる引き摺られ、目が覚めた時にはもう夜。呑気に焚き火をしている団長に殺意が湧いたとともに、戦慄した。帰ってからが、こわい……!!!

171203
prev//next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -