→人類最強生体兵器3
これの続き。マゾ主。とても気持ち悪い。
「う、ぐっ……」
薄暗く湿った地下室から、男の呻き声が聴こえてくる。その声はひどく苦しそうで、明らかに痛みに耐えているような声だった。それに次いで、誰かが何かを問いただすような声も聴こえる。
「お前ら、何者だ?」
「あっああ!!」
ベリ、といとも簡単に男の爪が剥がされた。拷問だ。敵に捕まった哀れな男が、拷問を受けている。右手の爪はもう既に残っておらず、今度は左手の甲にナイフがあてられているところだった。ずぶずぶと沈んでいくナイフに、男はのたうち回る。
「あが、あぐぁ、あぁああ、」
「お前が十秒黙る度に爪を一枚ずつはがす方針だったが、ずっと爪じゃなれちまうだろ?」
「はぁ、はぁ、はっ……あぁ」
「答えろ、お前らの目的はなんだ」
「ん、う、ふぅ」
「……?…おい、ちょっと待て、お前…まさかと思うが、」
「………」
「悦んで、ないか………?」
…んっふっふっふ。図星をつかれて、とうとうおれは耐えきれず口角を上げてしまった。
やぁ、おれの名前はナマエ。幻影旅団だよ。生粋のマゾヒストであるおれは見てわかるとおりお楽しみタイムな訳だが、こう見えて旅団のお仕事中。みんなのためにがんばらなくっちゃ!
そんな感じでやる気満々な俺に対し、完全に引いてしまった拷問マン。おいおい嘘だろ、まだ序の口だぞ。拷問舐めとんのか…?
「なんだよ、っ……もう終わり?そんなんじゃあ、俺の痛覚はまだ満足しないぜ」
右手の爪は全部剥がされ、左の手のひらには穴が開き、顔と腕に切り傷が目立ってきたが、こんなのじゃあ何の足しにもならない。だっておれ、もっともっと痛いのを知ってる。それにくらべたらこんなのは、ちょっと虫に刺された程度だ。いや、痛いけどね。
そうしてオラオラ、どうしたどうした、もっとやれよと奇妙な挑発をしている時だった。どかーん!という盛大な音と共に扉を乱暴に蹴破った何者かの手によって、俺のエクスタシータイムは強制的に幕を閉じた。
「な、なんだ!?」
「あれ!!フェイタンじゃん!!!」
振り上げた足を、ゆっくりと下ろすフェイタンの顔は、なんかめちゃくちゃ怒っている。
それから、目の前の男が突然倒れるまでは速かった。1秒もなかったように感じた。
その早業に見惚れながら、おれはあっさり1人で縄ぬけする。だってフェイタン助けに来てくれたわけじゃないから解いてもらえないだろうし。
フェイタンは、邪魔をしに来たのだ。早く帰りたいから。
「…なぜすぐ抜け出さなかたか」
「えーだって、時間稼ぎ必要だし……相性良さそうだなっておもって……」
出会った瞬間にわかった。この人おれを拷問してくれるぞ…!と。そしてその予感は確かに当たり、おれの期待通り拷問が行われた。相性も悪くない。先程の彼の目を思い出し、思わずゾクゾクっとする。人を人と思わない目。素晴らしかった。
しかし、目の前で倒れてる彼を見ると、あっという間に興醒めしてしまう。だからおれは、ぴくぴく痙攣する彼にトドメを刺しておいた。だってそうしなきゃこれからフェイタンの玩具コースだもん。そんなの嫉妬に狂っちゃう。
フェイタンはなんにも言わなかった。ただ顔を顰めておれをじっと見つめている。
「…怒った?」
自然と言葉に期待が籠る。
しかしフェイタンは、おれの傷を一通り眺めたあと、心底不愉快そうに眉間にシワを寄せ、踵を返した。
「ささと行くね。お前の長すぎる時間稼ぎのせいで置いてかれてたら殺す」
「もっと怒ってくれるとおもってた」
振り返ったフェイタンは、面倒くさそうにおれを睨んでため息を吐いた。
「…おまえがそれ期待して抜け出さなかたのわからないほど私バカじゃないよ」
「おっ、これが世にいうお預け?放置プレイ?いやーおれそれやだなぁおれ基本かまちょだからさーそれに痛いのが好きなんだよーいじめられたいわけじゃなく。あ、でも暴言はすき」
「お前」
静かに呼ばれ、改めて見下ろしたフェイタンの目は、すっと背筋が冷えるくらいには、恐ろしいものだった。
「その怪我治てからにしたほうが身の為ね。そこまでやた後の私の拷問、お前でもきと悦ぶ余裕ないよ」
「試してみる?」
ヒラヒラ、と見せたおれの爪のない右手。それを、挑発ととったのだろうか。数秒後、突然フェイタンはおれの手を掴みあげて、すごい方向にひねり上げた。おれが僅かに顔を歪めると、フェイタンはにんまりと笑う。それから、そのまま体を押され、どん!と壁に押し付けられた。
「いっ…!なんだよフェイタン、今日ノリノリだね」
「その口切り取られたくなかったら黙るね」
ぼきん!と俺の右手の指が2本折れた。
本気じゃん。どうしよう興奮してきた。
そう、これ、これだ。これなのだ。おれが求めている痛みというのは。やっぱりさっきの拷問なんて、所詮は痛みを知らない者のお遊びに過ぎない。おれのこれはそれとは全く違うし、フェイタンのこれも全く違う。
おれ達は、痛みというものを深く知っている。痛みとは、常に傍らにあり、おれ達を何度も殺そうとしてきた。ある意味それから逃れるために、おれたちは。
フェイタンはそのままみしみしと俺の右手に圧をかける。彼のもう片方の手は、先程抉られた俺の左の手のひらに伸びて、おれがあ、と思うよりも早く、何の躊躇いもなくその傷口に指を突っ込んで抉りはじめた。
こんなとき何よりも俺を苦しめるのは、ビリビリとおれの感覚を麻痺させる電流のようなものである。人はこれを恋と呼んだりするらしいけれど、要するに興奮状態が生み出した産物という訳だ。
「あっあっフェイタン、も、〜〜〜っ!!」
やっぱり、やっぱりフェイタンだ!おれにはフェイタンしかいないのだもう愛がとまらないあいらぶゆーあいらぶゆーうぉーあいにーてぃあもetc
そうして身悶えるおれに、フェイタンは一言。
「気色悪い」
ああもう、愛してるよフェイタン。
どうかおれの治癒力が追いつかないくらいに、いじめ倒してね。
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