→トリアタマ
「おい待てトラ野郎」
俺がそう声をかけても、鼻歌を歌ってリズムよく人間の作った道を歩いて行ってしまう元師団長に、俺はただ怒りをおぼえた。ムキになって追いかけ、肩を掴んで振り向かせる。
「……おっ」
「待てって言ってるだろうがトラ野郎」
「え、俺の事言ってたのかよ?言ったよな?俺チーターだって」
「………え…」
「ていうか何でお前がここにいるんだよ、ナマエ」
着いてきちゃったのか仕方ねぇなー。
なんてあきれたように俺を見下ろすヂートゥに怒りは更に増す。
好きでついてきたんじゃない。俺はお前よりコルトが好きだ人として。いや蟻として。あいつは真面目でいい奴だった。大切な俺の師団長だ。
こんな奴とちょっとでもつるんだのが間違いだったのだ。大体どうして、隊の違うヂートゥなんかと。
何か理由があった気がしないでもないが、思い出せない。おそらく気の迷いだろう。たぶんコルトの厳しさにちょっと疲れたとかで、誘われたからつい遊びたくなったのだ。
ああ、その点に関しては後悔しかない。めんどくさいけどコルトとずっと真面目に仕事してればあんな悲劇は起きなかったのに。
ごめんなさいコルト、もう二度とサボったりしないよ。ああそういえばコルトはどうしてるだろう。女王はどうなっただろうか。
本当に、ごめんねコルト、俺がすぐにこいつを成敗して、すぐそっちに行くからね!
「お前コルト大好きだよなー、おれん時と態度ちがすぎ」
「コルト大好きっていうか、お前が大嫌いなんだ。まぁコルトはお前と違って真面目で優しくていい奴だったから好きだけど!とにかく、お前はほんとに許さない」
「お前さ、前はそんなに俺の事敵視してなかったよなー、寧ろ仲良かったじゃん。何で急にこうなったわけ?」
「わすれたのか………!」
これだから嫌なのだ。
速さがどーのしか記憶できず忘れっぽくてあきっぽいにゃんこみたいなこいつが憎い。猫科め、許さん。こういういい加減な奴が悲劇を起こすと相場が決まっている。そして実際に起こしたんだ。
「教えてやるからその頭によーく刻んでおけよ…お前はなぁ、俺の、俺の可愛いペットを………食ったんだ!あろうことか俺の目の前で!!」
「ん…?全然覚えがないんだけど、誰それ」
「だいすきだったのに…お前が目の前で頭からがぶって食べたんだろうがぁーうああああぁん」
そうなのだ。俺がペットとして可愛がっていた
人間の女の子を(ユンジュみたいな飼い方はしない。あいつの飼い方は滅茶苦茶だ。あれは普通に愛護団体から訴えられる虐待だった)
こいつは城を出ていく直前にがぶりと食ったんだ…!頭部のなくなったあの子を見て怒りで目の前が真っ赤になったのを覚えている。
「あーあー泣くなよ鬱陶しいなぁ…あーあれか!あの時の足の遅い人間な!」
「鈍足なのが可愛かったんじゃないか!とにかくあの…えーと、シロ…いやクロ?だったかの仇は俺がとる!というわけで許さないからついてきた。この手で息の根を止めるまで俺は…!」
俺がぎりぎりと拳を握りしめていると、ヂートゥは馬鹿にしたようにハッと笑った。
「無理無理、お前牙とかないし、俺の方がつよいって!そもそもお前は俺に触れることすらできないから!」
「はんっ言っとくけどさぁ、チーター陸上最速なだけだかんな?俺の獲物を捕る時の降下速度のが凄いからな鳥なめんな」
笑いながらそういった瞬間。空気がざっと変わり、ヂートゥがちょっと怒ったのを感じ取った。
いや、怒らせようとしたんだけど、ちょっとだけびびる。それと同時に今更後悔がわいてきた。
というか、俺なんでわざわざ話しかけちゃったんだ…。空から急降下してくちばしドリルで襲えば確実に勝てた…陸上ではぶっちゃけ分が悪いだろ。
…一先ずにげるか!!
俺は翼をひろげた。
そしていざ飛び立たんとしたとき、
「おっと、逃がさないぜ」
がっしり羽を掴まれた。えっいたいし!羽根むけるし!!
もがく俺にヂートゥはいつもの馬鹿そうな笑顔で笑った。そして、なんだか変なことを言った。
「お前、ちっちゃい頃も俺とよく競走したけどいっっつも俺には勝てなかったよな」
「…、は?
ちっちゃい頃ってなんだお前馬鹿にしてんのか。というか、俺お前と競走なんてしないぞ、…?」
「……あり?」
ヂートゥは不思議そうに首をかしげる。
それ俺がしたいわ。急にどうした。いつ競走なんてした。地上じゃ負けるから俺しないぞ!!
「………まぁいっか。俺の気のせいかもな」
「そーだよ、それに俺負けないし!」
「はいはいそれ聞き飽きた…ん?なぁ、やっぱりお前俺と競走したこと…」
「ないって、何いってんだお前」
トリアタマ
(とりあえずお前、ちゃんとコルトんとこ帰れよ)
(はぁ?お前が死んだらな!)
(帰れって、お守りなんてまっぴらなんだっつーの)
(あっ!待てよライオン!!)
(それはハギャ)
130922
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