8.When a man is in love he endures more than at other times, he submits to everything.

朝とも夜ともつかないこの時間の空は、まだ仄暗い色をしている。しずかに眠る街を走る車に揺られながら、二人はただ、黙りこくっていた。
何を話していいかわからない。何を話すべきでもない。なまえはそんな気がして、不思議な気持ちでいた。なまえは沈黙に耐えられるタイプではなかったが、何だかリヴァイといる時はこうしていることが一番正しく、これが本来あるべき形だったのではないかと、そんな風にすら思った。今までの数年間が、まるで間違いのように思えて────
しかし、そんなしっくりとくる沈黙を破ったのは、意外にもリヴァイだった。



「起こして悪かったな」

「え?いや。そんなんいつもじゃん」



慣れからするりと出てしまった言葉に、リヴァイは元々顰めていた顔を更に険しくさせる。なまえは、運転席に座るリヴァイをちらりと見て、頭の後ろで腕を組んだ。
それと同時に、さっきまでの考えを馬鹿馬鹿しく思った。きっと自分はリヴァイに感化されていたのだ。今の自分の違和感を無理に探して、ありもしない一千年前の、自分の本来あるべき形を探して収まろうとしている。きっとそれだけなんだ。
思ってた以上に自分という奴が浅い女でがっかりしつつ、やっぱり自分はリヴァイが好きなのだと思った。だけど、だからといって、浅い女に自らなるつもりは無い。気づいたからには、いつも通り自分らしくいたい。なまえはへらへら笑いながら、からかう様にリヴァイに言った。



「リヴァイはよく魘されるよね」

「………てめぇだってそうだろ」

「えー?いや私はないよ。私は一千年前になんていかないもんね」

「……行ってる」

「え?」

「…いや」



リヴァイが折れるように再び黙ったのを、なまえは面白くなさそうな目で見つめた後、再びふっかけるようににやにやしながら言う。



「リヴァイってほんと、なんかつらいメンタルしてるよね〜」

「…てめェに会ってからだ、これは」

「ええ?わたしのせいかよ。出会った時からそうだったでしょ」

「なら、てめぇに出会った瞬間からだ」



リヴァイの言葉に、流石になまえは一度黙って、んー、と考える。それから少しだけ眉を下げて、困ったように笑いながらリヴァイに問いかけた。



「ごめん、出会わなきゃよかったって話?」

「いいや」



リヴァイは静かに首を横に振る。そこには気遣いや巫山戯た空気は一切なく、リヴァイはいたって真剣な顔をしていた。



「これは決まっていたことだ。いいもクソもねェ」



真面目な顔をしてそう言ったリヴァイに、なまえは再びんー、と考える。それから、何か思いついたようにあっと言って、にやりとした。



「りばい、ひょっとして運命って言いたいの?」



あまりにもらしくない、似つかわしくないワードに、ぷぷ、と笑うなまえに、リヴァイはまたむっと顔を顰める。しかしなまえは変わらずふざけた調子でからかうように笑った。



「りばいそんなこというんだ」

「……てめぇは何か勘違いしてるようだから言っておくが、これは真実だ。冗談でもまして妄想でもねェ」



────なぁ、なまえよ。この前いったことは本当なんだ。俺は前世でお前を。
リヴァイは、そう言いたかった。しかし、なまえの顔見て、いいかけてやめる。なまえは、自分のいうことをあまり相手にしてない。前はそれがもどかしかったが────もう、いいじゃないか。この告白がなんの救いになる。俺がなまえを見捨てたこと。それは真実だが、この世はそれをやさしくあまい夢というもので包んでくれる。それを暴いて、懺悔して、そうしてなまえを傷つけまた罪を背負うくらいなら、俺はなまえに嘘をついてでも、この罪を誰とも共有せず俺だけのものにしなければならない。忘れられていてもいい。孤独でも構わない。
そう思い、一つ息を吐いて、言葉を待っているなまえに言った。



「…それともう一つ。お前は知らないかもしれないが、俺はこう見えてロマンチストだ。そういうのも言う」

「え〜それこそ冗談でしょ。てかもしそれがほんとだとしたら、やっぱ前世なんて嘘じゃんよ」

「なんならこれから海にでも行くか?追いかけてやるよ」

「怖そうだからいいよ。でも海は行く」



ようやく決まった行き先に、二人の頬は自然と緩んだ。
なまえは思う。リヴァイは相変わらず変なやつだけどいいんだ、すきだから。一緒にいれる時に一緒にいられれば、あとのことはきっと関係ないんだ、と。
リヴァイもリヴァイで、これでいいんだと思った。たまにさみしさや寒さを感じたとしても、それはなまえを見捨てた罰であり、受け容れるべきこと。むしろ、見捨てたくせに今度はこうして一緒にいられるのだから、それだけで報われているのだ。なまえが自分を悪夢から呼び戻してくれる。一千年前なんて馬鹿な話だと、柔らかく微笑んでくれる。それで充分すぎるくらいだった。

なまえもリヴァイも夢を見る。
終わったはずの悪夢の続きを、何度も何度も見続ける。その地獄からお互いを目覚めさせるのは、これからも、お互いの役目だ。



180113

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