6.What is evil? ─Whatever springs from weakness.

呻き声を聞いて、真夜中にはっと目が覚めた。がばっと起き上がり、慌てて隣を見ると、案の定なまえが顔を歪め、苦しそうに呻いている。俺はそれを見て、全身からぶわりと汗が噴き出すような感覚に包まれた。
なまえは目を閉じたまま、何か言っている。耳をすまさなくとも、二人きりの部屋はいやに静かで、なまえが「いたい」とか、「たすけて」、とか、そんなような事を繰り返し繰り返し言っているのだとすぐにわかった。
大きな足音、馬が地面を蹴り巻き起こる土煙、あたりに響く悲鳴、何か硬いものが折れる音、あかい、鮮血───全てがフラッシュバックする。目の前で横たわるなまえが、あの日のなまえと重なって、俺はいてもたってもいられず、なまえを激しくゆすって起こした。



「なまえ、なまえ、おい起きろ。なまえ!」

「……っ!!!」



はっと目を開けたなまえは、顔にびっしょりと汗をかいて、ひどく驚いた目をして俺を見る。それから俺を認識すると、そこにみるみる懐疑と困惑の波が広がって、なまえの瞳を満たしていく。まるで知らない奴を見るような、なんでこんなところにいるのだというような、そんな色を見て、見て、心臓のあたりがひどく苦しくなる。
あの日お前を見捨てた俺が、ここにいていいわけがないのだと、そんなことは自分自身が一番よくわかっていたのだ。
自然と目線を下げた俺とは対照的に、なまえは俺と過ごしたこの数年間のことを思い出してきたらしい。いつもの調子で、俺に今の今まで見ていた夢の話をする。



「りばいか……きいてよ。私今すげー怖い夢みたんだよ……内容完全に忘れちゃったけど、なんかものすごく怖い夢みたし死ぬかと思った」

「……悪い」

「え、なんで謝んの?」



なまえはからからと愉快そうに笑っている。なまえは、あの頃よりずっとお気楽でおめでたい奴になった。片付けは壊滅的にできなくなったが、これは悪くない事だと思う。あんな時代の話を覚えているだなんて、きっとこいつにとってはつらいだけの話だ。
そうとわかっていつつ、なまえと過ごしたあの日々も、俺は捨てることができない。



「でもね、すげー怖かったけど、あんまり嫌な夢じゃあなかった」

「……何故だ?」

「え?うーん、わかんないけど……なんかいま、満たされてるなーって、なんか満足感あるから」



にっこりと笑ったなまえを眩しく思う。その顔が、過去の日々と重なっていく。昇る朝日を背に、なまえがこういったことがあった────「今日はいい日だ」と。たったそれだけだ。それだけのことを忘れられずにいるということを、俺はなまえにもわかってほしいのかもしれない。こうして懐かしんでいるということを、こいつと、共有したいのかもしれない。
どうしてあんな話をしてしまったのだろう。千年前の事をこいつに話してからずっと考えていたが、きっとそうなのだ。或いは、責めてもらいたかったか────何にしても、すべてが自分のためだったと、俺は1人自嘲気味に笑うしかなかった。そんな俺のことを、なまえは奇妙なものを見る顔をして見ていたので、とりあえずどついておいた。

180106

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